98.移(99.から
2008年7月13日 やあ、俺はウルトン。世紀の大魔法使いさ!ただ今はしがない本の輸送屋をやっているんだ。え?何故かだって。うーん何故だろう?俺が本が大好きだから、かな?いやいや、クソ女に騙されたとか、そんなことは断じてないさ!
そして今は本を各図書館に渡すために本のたくさん詰まった"リアカー"を必死で引っ張っているんだ!え?何で車じゃないんだって?それはしかたないな、俺は免許をもっていないから!決して"費用が高いから転送装置なんて高いものは使わん"といったクソハゲ親父のせいではないぜ!
近くの図書館から遠くの図書館、そしてフォロッサ大図書館までも、とりあえず『ロフ島』内の図書館全てに本を運ぶんだ!これは中々できない作業だぜ(笑)ロフ島よりも外に運ぶのは管轄外なのが俺の殺意を少し抑えているなんていうのはきっと勘違いさ!
給料?ああそう聞いてくれよ!給料すげーんだぜ!なんと、時間内にどれだけの本を輸送できたか、これが給料を決めるんだ!つまり頑張ればかなり稼ぐ事もできるんだそうだ!だけど俺はリアカーだから遅いけどな(笑)
カイドのロフ島でリアカーを引っ張って街中を移動しまくっている人を見つけたら俺だと思ってくれよな(笑)
そして今は本を各図書館に渡すために本のたくさん詰まった"リアカー"を必死で引っ張っているんだ!え?何で車じゃないんだって?それはしかたないな、俺は免許をもっていないから!決して"費用が高いから転送装置なんて高いものは使わん"といったクソハゲ親父のせいではないぜ!
近くの図書館から遠くの図書館、そしてフォロッサ大図書館までも、とりあえず『ロフ島』内の図書館全てに本を運ぶんだ!これは中々できない作業だぜ(笑)ロフ島よりも外に運ぶのは管轄外なのが俺の殺意を少し抑えているなんていうのはきっと勘違いさ!
給料?ああそう聞いてくれよ!給料すげーんだぜ!なんと、時間内にどれだけの本を輸送できたか、これが給料を決めるんだ!つまり頑張ればかなり稼ぐ事もできるんだそうだ!だけど俺はリアカーだから遅いけどな(笑)
カイドのロフ島でリアカーを引っ張って街中を移動しまくっている人を見つけたら俺だと思ってくれよな(笑)
97.店(95.から
2008年7月13日 次の日、俺は少し緊張していたからか予定の時間より1時間も早く指定された場所に着いてしまった。その場所というのがこれまた小汚い店で、どう見てもフォロッサ大図書館に関する面接をするような場所には思えなかった。
面接はいつの間にか終わっていた。何を話したのかは覚えていないが、俺の熱意と魅力は十分に伝えられたと思う。ただ面接官が気に入らなかった。「うんうん」とか「はいはい」とかしか言ってない気がする。
「じゃ、着いてきて」
頭の天辺がハゲかけているおっさんが俺に図々しくも指図をしてきた。というかLiveでは姿をある程度自分で設定できるのに何故ハゲを選んだのか俺には到底理解できない。そんなおっさんが面接官だったというのも俺には理解できない。
仕方なくおっさんに着いていった先にあったのは、大量の本だった。本、本、どこを見ても本。空間全てが本で埋め尽くされている。本の倉庫か何かだろうか。
「じゃ、これをここにね。全てここに書いてある通りに動けばいいから」
「おいまてこらハゲ。え、受付の俺にこれをどうしろって言うんだよ」
「受付?ああそれは、この手紙に書いてあるから。じゃあ頑張って」
その手紙は、フォロッサ大図書館受付Bからだった。
"突然の事でごめんね☆えーと、なんていうか、ごめんね☆
君は多分、受付は向いていないと思うんだ。
だから、図書館への本の輸送作業をやってくれないかな?
騙すつもりはなかったんだけどね、ごめんね☆
給料はちゃんと払われるからさ!あ、あと本も読み放題だよ!
じゃあ頑張ってね!これもフォロッサ大図書館のためだよ☆"
あ?
面接はいつの間にか終わっていた。何を話したのかは覚えていないが、俺の熱意と魅力は十分に伝えられたと思う。ただ面接官が気に入らなかった。「うんうん」とか「はいはい」とかしか言ってない気がする。
「じゃ、着いてきて」
頭の天辺がハゲかけているおっさんが俺に図々しくも指図をしてきた。というかLiveでは姿をある程度自分で設定できるのに何故ハゲを選んだのか俺には到底理解できない。そんなおっさんが面接官だったというのも俺には理解できない。
仕方なくおっさんに着いていった先にあったのは、大量の本だった。本、本、どこを見ても本。空間全てが本で埋め尽くされている。本の倉庫か何かだろうか。
「じゃ、これをここにね。全てここに書いてある通りに動けばいいから」
「おいまてこらハゲ。え、受付の俺にこれをどうしろって言うんだよ」
「受付?ああそれは、この手紙に書いてあるから。じゃあ頑張って」
その手紙は、フォロッサ大図書館受付Bからだった。
"突然の事でごめんね☆えーと、なんていうか、ごめんね☆
君は多分、受付は向いていないと思うんだ。
だから、図書館への本の輸送作業をやってくれないかな?
騙すつもりはなかったんだけどね、ごめんね☆
給料はちゃんと払われるからさ!あ、あと本も読み放題だよ!
じゃあ頑張ってね!これもフォロッサ大図書館のためだよ☆"
あ?
96.紙(97.から)
2008年7月13日 アトラも忙しくて俺の相手ばかりしていられないそうなので、俺は城から半ば追い出される形で退出した。俺はその足でフォロッサ大図書館に向かう事にした。せっかく『性質』に関する情報を手に入れたのだから、すぐに調べなければ損だ。
「ようこそ!フォロッサ大図書館へ!」
受付から元気のいい声が聞こえてきた。大図書館の復旧作業により大分小さくなった受付に一人ニコニコと女が立っている。以前来た時には居なかったから新しい人だろうか。
「あー、ごほん。『性質』に関係する本を探しているんだが……」
「わかりました!『検索』しますね!」
俺が詳しく説明しようとする前に受付はしゃべり始めた。っていうかこの人も【検索】を使えるのか……!?
「えーと、えーと」
受付は手元の機械に何かを打ち込んでいた。どうやら検索というのは、魔道機械による本の検索のようだ。
それにしても手つきがたどたどしく遅い。遅すぎる。俺がやった方が早いんじゃないかってぐらい遅い。
受付が口を開いたのは、検索を始めて10分経ったころだった。良く辛抱したもんだと自分を誉めたかったが、受付の口から放たれた言葉によってそんな気力も無くなった。
「出ました!『性質』に関係する蔵書は2万7千5百5十8冊です!」
あほかと思った。
「2万!?もっと絞れないのか?俺が探しているのは多分そのうちの数冊なんだが」
「はい!できますよ!どのようなものをお求めですか!?」
なら最初から絞込みをさせろよ。お前が俺の説明に割って入ってきたんだろうが。
「どのような……何と言うかこう、『感情』とかそういう……なんというか?」
「もう少し具体的にお願いします!」
「あれだよあれ!! あれだよ!!! 大魔道的な!!!」
「わかりません!!!」
バシーンッ
……殴られた!?
「あっ何してるの!!」
全くもって予想外の攻撃を喰らって呆然と立ちすくんでいると、新たな受付が現れた。新たな受付は俺を殴った受付を何やら叱り付けていた。利用者にいきなり平手打ちを喰らわす受付なんて叱られて当然だっていうかそんなのは受付じゃない。
「ほんとごめんね!えーと何をお求め?あ、ついでにさっき何があったのか君のほうから教えてくれる?」
一通り叱り付けた後、新たに来た受付が俺のほうに向き直って謝罪した。というか謝罪が本当は先だと思うが、新しい受付がそれなりに美人だったので許すことにした。
とりあえず、殴られた経緯と、求めている『性質』の本についてを説明する。受付B(美人のB)は軽く話を聞いたあとは熱心を熱心に操作し始めた。
「前は【検索】と【読心術】を持っている娘がいたから良かったんだけど」
機械による『検索』を続行しながら、受付Bはどこいっちゃったのかねえ、と洩らした。
お姉さんの事だ。お姉さんがどうなったのか、伝えるべきか伝えないべきか、迷ったが何も言わない事を選んだ。
「そういえば、……なんであんなのを受付にしてるんですか?」
話を変えるために、俺は後ろに引っ込んだ受付A(あほのA)をちらりと見ながら殴られてから気になっていたことを聞いた。
「あー、あの子ねえ」
聞くところによると、大図書館が襲撃された事件以降、図書館で働きたいと志願してくる人が激減し、その上仕事を止める人までも続出したらしい。だから多少性格に問題があっても見習いのプレイヤーを使うしか無いという。
「人手不足……」
「?」
これは、もしかして運命的なめぐり合わせなんじゃないか。そうに違いない、
「一つ提案があるんですけど」
俺はいま金が無い。そしてこの図書館には人手が無い。示す事は一つだけだ。
「この大魔法使いである俺を雇いません?」
――数時間後
俺は一枚の紙と『性質』に関する本を手に図書館を後にした。紙には"面接をしたいので明日いついつにどこどこに来てほしい"という旨のことが書かれていた。……お姉さんと同じ仕事が出来ると考えると少し、嬉しい。
「ようこそ!フォロッサ大図書館へ!」
受付から元気のいい声が聞こえてきた。大図書館の復旧作業により大分小さくなった受付に一人ニコニコと女が立っている。以前来た時には居なかったから新しい人だろうか。
「あー、ごほん。『性質』に関係する本を探しているんだが……」
「わかりました!『検索』しますね!」
俺が詳しく説明しようとする前に受付はしゃべり始めた。っていうかこの人も【検索】を使えるのか……!?
「えーと、えーと」
受付は手元の機械に何かを打ち込んでいた。どうやら検索というのは、魔道機械による本の検索のようだ。
それにしても手つきがたどたどしく遅い。遅すぎる。俺がやった方が早いんじゃないかってぐらい遅い。
受付が口を開いたのは、検索を始めて10分経ったころだった。良く辛抱したもんだと自分を誉めたかったが、受付の口から放たれた言葉によってそんな気力も無くなった。
「出ました!『性質』に関係する蔵書は2万7千5百5十8冊です!」
あほかと思った。
「2万!?もっと絞れないのか?俺が探しているのは多分そのうちの数冊なんだが」
「はい!できますよ!どのようなものをお求めですか!?」
なら最初から絞込みをさせろよ。お前が俺の説明に割って入ってきたんだろうが。
「どのような……何と言うかこう、『感情』とかそういう……なんというか?」
「もう少し具体的にお願いします!」
「あれだよあれ!! あれだよ!!! 大魔道的な!!!」
「わかりません!!!」
バシーンッ
……殴られた!?
「あっ何してるの!!」
全くもって予想外の攻撃を喰らって呆然と立ちすくんでいると、新たな受付が現れた。新たな受付は俺を殴った受付を何やら叱り付けていた。利用者にいきなり平手打ちを喰らわす受付なんて叱られて当然だっていうかそんなのは受付じゃない。
「ほんとごめんね!えーと何をお求め?あ、ついでにさっき何があったのか君のほうから教えてくれる?」
一通り叱り付けた後、新たに来た受付が俺のほうに向き直って謝罪した。というか謝罪が本当は先だと思うが、新しい受付がそれなりに美人だったので許すことにした。
とりあえず、殴られた経緯と、求めている『性質』の本についてを説明する。受付B(美人のB)は軽く話を聞いたあとは熱心を熱心に操作し始めた。
「前は【検索】と【読心術】を持っている娘がいたから良かったんだけど」
機械による『検索』を続行しながら、受付Bはどこいっちゃったのかねえ、と洩らした。
お姉さんの事だ。お姉さんがどうなったのか、伝えるべきか伝えないべきか、迷ったが何も言わない事を選んだ。
「そういえば、……なんであんなのを受付にしてるんですか?」
話を変えるために、俺は後ろに引っ込んだ受付A(あほのA)をちらりと見ながら殴られてから気になっていたことを聞いた。
「あー、あの子ねえ」
聞くところによると、大図書館が襲撃された事件以降、図書館で働きたいと志願してくる人が激減し、その上仕事を止める人までも続出したらしい。だから多少性格に問題があっても見習いのプレイヤーを使うしか無いという。
「人手不足……」
「?」
これは、もしかして運命的なめぐり合わせなんじゃないか。そうに違いない、
「一つ提案があるんですけど」
俺はいま金が無い。そしてこの図書館には人手が無い。示す事は一つだけだ。
「この大魔法使いである俺を雇いません?」
――数時間後
俺は一枚の紙と『性質』に関する本を手に図書館を後にした。紙には"面接をしたいので明日いついつにどこどこに来てほしい"という旨のことが書かれていた。……お姉さんと同じ仕事が出来ると考えると少し、嬉しい。
95.故 (94.から)
2008年6月17日コメント (2)―スノウ
中立国を離れ、私は今カイドにいる。ユツキと出合ったこのカイドならば、考えが整理されると思ったからだ。だから体が動くとおりに見たいものを見て、したいことをした。しかし、何故私があのようなことをしたのか、いや、"しようと思った"のかは解らないままだった。結果得たものと言えばニレの小言だけだった。
ユツキの家にも行った。相変わらず乱雑な部屋だったが、それは無視することにした。ここも本部と同じように"散らかった"ままのほうがいい。ニレが「どうせ使わないのでしょう?」とユツキの私物を持ち出そうとしたが、それも止めさせた。
「貴女に【司書】の物に手をつけることを禁止する権利があるとでも思っているのですか?貴女が殺した【司書】の物を?」
ニレは結局は私の言う事に逆らわない。それでも毎度辛辣な言葉を投げかけてくるのは私にこの事実を忘れさせないためだ。ユツキは私が殺した。忘れる事が許される事実ではない。
「まあこれは諦めますから?【司書】の遺品の方を少しぐらい頂けませんか?」
「遺品……?」
Liveではプレイヤーが昇天したとき持ち物を残していく。詳しくは知らないが、所持金も含めほぼ全てのアイテムを落とすと言われている。Liveが始まった当初からPKが耐えないのもこの"ドロップ"が一つの原因とされている。
"私がユツキを殺した"時、ドロップにまで注意を向ける事が出来なかった。普段ならばそのような見落としはしないのだが、あのときの私は近づいてきたニレに気付かないほど精神が不安定な状態にあった。
私が遺品を回収していない旨を伝えると、ニレは珍しく訝しげな顔をした。
「……それはおかしいですね?ワタクシがあの場に来たときにはもう地面には【司書】のものと思わしき血液しかありませんでしたが」
何故だ?蒐集癖のあるユツキが道具を一つも持ち歩いていなかったというのはありえない。例えそうだとしても、所持金などが何一つとしてドロップしないというのは奇妙な事だ。
「最近はおかしなことばかりですね?
自分の行動の理由が分からないという我らがリーダー様といい、遺跡の内通者と【目目連】で連絡を取っていたはずのワタクシが、その内通者を"覚えていない"ことといい?」
―某南門の見張り
「待ってくださいよグィンセイミさん!」
俺はしがない門番だ。今は門番の仕事を一時止め、俺たちの集落を救ってくれた恩人であるグィンセイミさんと一緒にシムシに向かっている。遺跡をシムシまで飛ばす燃料も無いので、とりあえず歩きだそうだ。
「とろとろしてんじゃねえ。お前らが厄介な要求をしてきたせいで、あのおぞましい場所に行かなきゃならねぇんだぞ」
「すみません!でも、それは"約束"のうちですよね?」
"遺跡のもの全員をシムシの民として匿う事"、そういう約束で俺たちはあの遺跡を手放した。恩人さんには余計な手間をかけさせてすまないけども、これは正統な要求なんだ。
「チッ、さっさと行くぞ。またこいつらみてぇのが現れるかもしれねぇからな」
グィンセイミさんの足元には男が3人転がっていた。シムシに向かう俺たちにいきなり襲い掛かってきた、つまり追い剥ぎという奴だった。ここはもう中立国とシムシの境界に入っている。国境というのは大抵追い剥ぎやらの犯罪者が出やすくなるものだ。
グィンセイミさんによって致命傷を受けた男たちは、ただの物となり、そしてそれは昇天した。
「あれ……?」
「あ?」
違和感が頭を過ぎった。気のせいかもしれない。いやでも、今の光景と、あの時の光景。思い出す、が上手く思い出せない。何故だろう……記憶に靄が掛かっている?
―ウルトン
「まあともかく、何故【検索】が狂ったのか。それが重要じゃな」
アトラが言っているのは遺跡でのお姉さんの最後の【検索】のことだ。俺たちはお姉さんの【検索】結果に従って、3手に別れた。そして門の外に待っていたのは、【検索】で表示された奴とは別のプレイヤーだった。これは【検索】が外れた、と考えるのが一番妥当かもしれないが……
「俺たちの行動が筒抜けで、【検索】後に場所を入れ替えられたんじゃないか?」
ミヤイニレという奴が、確かそのような事を言っていた。いくら疲れていたからといってお姉さんが【検索】を失敗するとは俺には到底思えない。
「お主に聞いた限りの地理から考えるに、それは難しいことじゃと思うがのう。長距離の短時間での移動には、それ相応の魔力を持ったテレポーターか、アイテムが必要じゃ」
「だけど」
「まあ待て」
手を軽く振りながら俺の反論を遮ってアトラは話を続けた。
「【知識の司書】はカイドでも優秀で名が通っていた。儂も面識があるしのう。じゃからこそ、あやつがミスをするとは思えん。じゃが状況から判断するに【検索】は確かに狂ったのじゃ」
何故かはわからんがのう。と付け足して、アトラは目を瞑った。
中立国を離れ、私は今カイドにいる。ユツキと出合ったこのカイドならば、考えが整理されると思ったからだ。だから体が動くとおりに見たいものを見て、したいことをした。しかし、何故私があのようなことをしたのか、いや、"しようと思った"のかは解らないままだった。結果得たものと言えばニレの小言だけだった。
ユツキの家にも行った。相変わらず乱雑な部屋だったが、それは無視することにした。ここも本部と同じように"散らかった"ままのほうがいい。ニレが「どうせ使わないのでしょう?」とユツキの私物を持ち出そうとしたが、それも止めさせた。
「貴女に【司書】の物に手をつけることを禁止する権利があるとでも思っているのですか?貴女が殺した【司書】の物を?」
ニレは結局は私の言う事に逆らわない。それでも毎度辛辣な言葉を投げかけてくるのは私にこの事実を忘れさせないためだ。ユツキは私が殺した。忘れる事が許される事実ではない。
「まあこれは諦めますから?【司書】の遺品の方を少しぐらい頂けませんか?」
「遺品……?」
Liveではプレイヤーが昇天したとき持ち物を残していく。詳しくは知らないが、所持金も含めほぼ全てのアイテムを落とすと言われている。Liveが始まった当初からPKが耐えないのもこの"ドロップ"が一つの原因とされている。
"私がユツキを殺した"時、ドロップにまで注意を向ける事が出来なかった。普段ならばそのような見落としはしないのだが、あのときの私は近づいてきたニレに気付かないほど精神が不安定な状態にあった。
私が遺品を回収していない旨を伝えると、ニレは珍しく訝しげな顔をした。
「……それはおかしいですね?ワタクシがあの場に来たときにはもう地面には【司書】のものと思わしき血液しかありませんでしたが」
何故だ?蒐集癖のあるユツキが道具を一つも持ち歩いていなかったというのはありえない。例えそうだとしても、所持金などが何一つとしてドロップしないというのは奇妙な事だ。
「最近はおかしなことばかりですね?
自分の行動の理由が分からないという我らがリーダー様といい、遺跡の内通者と【目目連】で連絡を取っていたはずのワタクシが、その内通者を"覚えていない"ことといい?」
―某南門の見張り
「待ってくださいよグィンセイミさん!」
俺はしがない門番だ。今は門番の仕事を一時止め、俺たちの集落を救ってくれた恩人であるグィンセイミさんと一緒にシムシに向かっている。遺跡をシムシまで飛ばす燃料も無いので、とりあえず歩きだそうだ。
「とろとろしてんじゃねえ。お前らが厄介な要求をしてきたせいで、あのおぞましい場所に行かなきゃならねぇんだぞ」
「すみません!でも、それは"約束"のうちですよね?」
"遺跡のもの全員をシムシの民として匿う事"、そういう約束で俺たちはあの遺跡を手放した。恩人さんには余計な手間をかけさせてすまないけども、これは正統な要求なんだ。
「チッ、さっさと行くぞ。またこいつらみてぇのが現れるかもしれねぇからな」
グィンセイミさんの足元には男が3人転がっていた。シムシに向かう俺たちにいきなり襲い掛かってきた、つまり追い剥ぎという奴だった。ここはもう中立国とシムシの境界に入っている。国境というのは大抵追い剥ぎやらの犯罪者が出やすくなるものだ。
グィンセイミさんによって致命傷を受けた男たちは、ただの物となり、そしてそれは昇天した。
「あれ……?」
「あ?」
違和感が頭を過ぎった。気のせいかもしれない。いやでも、今の光景と、あの時の光景。思い出す、が上手く思い出せない。何故だろう……記憶に靄が掛かっている?
―ウルトン
「まあともかく、何故【検索】が狂ったのか。それが重要じゃな」
アトラが言っているのは遺跡でのお姉さんの最後の【検索】のことだ。俺たちはお姉さんの【検索】結果に従って、3手に別れた。そして門の外に待っていたのは、【検索】で表示された奴とは別のプレイヤーだった。これは【検索】が外れた、と考えるのが一番妥当かもしれないが……
「俺たちの行動が筒抜けで、【検索】後に場所を入れ替えられたんじゃないか?」
ミヤイニレという奴が、確かそのような事を言っていた。いくら疲れていたからといってお姉さんが【検索】を失敗するとは俺には到底思えない。
「お主に聞いた限りの地理から考えるに、それは難しいことじゃと思うがのう。長距離の短時間での移動には、それ相応の魔力を持ったテレポーターか、アイテムが必要じゃ」
「だけど」
「まあ待て」
手を軽く振りながら俺の反論を遮ってアトラは話を続けた。
「【知識の司書】はカイドでも優秀で名が通っていた。儂も面識があるしのう。じゃからこそ、あやつがミスをするとは思えん。じゃが状況から判断するに【検索】は確かに狂ったのじゃ」
何故かはわからんがのう。と付け足して、アトラは目を瞑った。
94.生 (91から
2008年6月16日「いやあすまんすまん。つい勢いでの」
俺を思い切り投げ飛ばしたアトラはカッカッカッと笑った。苦労の末謝ったというのに勢いなんて理由で投げられてたまるか。腹いせに金を貸せという要求を突きつけたが、働けの一言で一蹴された。
「そういや」
アトラに会いに来たのには謝罪のためと金を借りるため以外に、もうひとつの理由があった。いくら探しても見つからない『性質』についての情報を得ることだ。
「魔法の『性質』について何か知ってないか?魔道書を探しても詳しいことが載ってないんだよ。クサモチは訳の分からないことしか言わねーし」
「『性質』? お主魔道書を調べたのか?」
「そうだけど?」
『性質』は魔法の基本技術なんだから、魔道書を調べるのが普通じゃないか。料理本や哲学書に載ってるわけがない。
「『性質』つまり、平たく言うと『感情』の操作が魔術書に載っているわけがなかろう」
「魔道書じゃないのか!?」
俺が『性質』が載っている本を探すために費やした時間をいったいどうしてくれるんだ。それもこれもクサモチが悪い。あいつ次にあったらぼこぼこにしてやる。
「まあ魔道書にもいくつかそういう記述があるかもしれんが、少ないじゃろうな。
フォロッサ大図書館になら感情操作専門の書物もあるじゃろうから、調べてみればいいじゃろう」
こんな簡単なことなら、アトラにわざわざ聞きに来なくても図書館の司書にでも質問すれば分かったかもしれない。本当に時間を無駄にしている。それもこれもクサモチの!
「おおそうじゃ」
アトラは何かを思い出したように拳で手のひらを叩いた。腰掛けていたソファーの裏を漁りなにやらごそごそやっている。
「こんなものがここに来ておったんじゃが、もしかするとお主のかの?」
俺のほうを向き直ったアトラの手にはカラフルな物体が掴まれていた。それは見た目は鳥のようでもあるが、微動だにしないところは銅像のようだった。
「これは……お姉さんの……」
お姉さんのパートナー。遺跡で見失って以来、どこに行ってしまったのかわからなかったのに、こんなところに。そういえば、お姉さんの遺品、何も持っていない。そんなことを考える暇、無かった。
「お主がカイドを離れてから何があったか儂の暇つぶしに話してみい」
知らず知らずのうちにパロットに手を伸ばしていた俺に、アトラは静かに言った。
―――
「なるほどのう、【知識の司書】がのう……」
全ての説明が終わった。ジャスティス達に話したことと同じことを話すだけだったので楽だった。もちろんその後のジャスティスやらミンティスやらの話もしたので全く同じというわけではなかったが。
アトラはうーむと数回唸った後、
「お主は、生きていないと思うか?」
「は?」
唐突に言った。
いったいこいつは何を言っているんだ。お姉さんが死んだ瞬間を見た目撃者がいるのに、何を。「昇天の光を確かに確認した」と言っていたんだぞ?
「儂は"あれ"を見てしまったからのう」
「あれ?」
「【無神】による死んだ人間の完全な蘇生。まああれは例外中の例外じゃろうが。
じゃが、あれを見てからはどうも人というのはそう簡単に死ぬものじゃないと思えてきてのう」
確かに俺は俺の目でお姉さんの死を確認してはいない。だけれどもあの遺跡の奴らが嘘をつくとは思えない。勘違い、ならありえるかもしれないが……事が事だけに勘違いなんてするだろうか。
「まあ気にするな。その鳥はお主が預かっておくといいじゃろう。わざわざここに来たということは、もしかしたらお主に会いに来たのかもしれぬからのう」
アトラがパロットを投げてよこした。今まで石のように動きを止めていた体がふわりと動き、優雅に数回毒々しい羽を動かしたあと、パロットは俺の肩の上に止まった。それからはまたただの銅像のように動くことは無かった。
俺を思い切り投げ飛ばしたアトラはカッカッカッと笑った。苦労の末謝ったというのに勢いなんて理由で投げられてたまるか。腹いせに金を貸せという要求を突きつけたが、働けの一言で一蹴された。
「そういや」
アトラに会いに来たのには謝罪のためと金を借りるため以外に、もうひとつの理由があった。いくら探しても見つからない『性質』についての情報を得ることだ。
「魔法の『性質』について何か知ってないか?魔道書を探しても詳しいことが載ってないんだよ。クサモチは訳の分からないことしか言わねーし」
「『性質』? お主魔道書を調べたのか?」
「そうだけど?」
『性質』は魔法の基本技術なんだから、魔道書を調べるのが普通じゃないか。料理本や哲学書に載ってるわけがない。
「『性質』つまり、平たく言うと『感情』の操作が魔術書に載っているわけがなかろう」
「魔道書じゃないのか!?」
俺が『性質』が載っている本を探すために費やした時間をいったいどうしてくれるんだ。それもこれもクサモチが悪い。あいつ次にあったらぼこぼこにしてやる。
「まあ魔道書にもいくつかそういう記述があるかもしれんが、少ないじゃろうな。
フォロッサ大図書館になら感情操作専門の書物もあるじゃろうから、調べてみればいいじゃろう」
こんな簡単なことなら、アトラにわざわざ聞きに来なくても図書館の司書にでも質問すれば分かったかもしれない。本当に時間を無駄にしている。それもこれもクサモチの!
「おおそうじゃ」
アトラは何かを思い出したように拳で手のひらを叩いた。腰掛けていたソファーの裏を漁りなにやらごそごそやっている。
「こんなものがここに来ておったんじゃが、もしかするとお主のかの?」
俺のほうを向き直ったアトラの手にはカラフルな物体が掴まれていた。それは見た目は鳥のようでもあるが、微動だにしないところは銅像のようだった。
「これは……お姉さんの……」
お姉さんのパートナー。遺跡で見失って以来、どこに行ってしまったのかわからなかったのに、こんなところに。そういえば、お姉さんの遺品、何も持っていない。そんなことを考える暇、無かった。
「お主がカイドを離れてから何があったか儂の暇つぶしに話してみい」
知らず知らずのうちにパロットに手を伸ばしていた俺に、アトラは静かに言った。
―――
「なるほどのう、【知識の司書】がのう……」
全ての説明が終わった。ジャスティス達に話したことと同じことを話すだけだったので楽だった。もちろんその後のジャスティスやらミンティスやらの話もしたので全く同じというわけではなかったが。
アトラはうーむと数回唸った後、
「お主は、生きていないと思うか?」
「は?」
唐突に言った。
いったいこいつは何を言っているんだ。お姉さんが死んだ瞬間を見た目撃者がいるのに、何を。「昇天の光を確かに確認した」と言っていたんだぞ?
「儂は"あれ"を見てしまったからのう」
「あれ?」
「【無神】による死んだ人間の完全な蘇生。まああれは例外中の例外じゃろうが。
じゃが、あれを見てからはどうも人というのはそう簡単に死ぬものじゃないと思えてきてのう」
確かに俺は俺の目でお姉さんの死を確認してはいない。だけれどもあの遺跡の奴らが嘘をつくとは思えない。勘違い、ならありえるかもしれないが……事が事だけに勘違いなんてするだろうか。
「まあ気にするな。その鳥はお主が預かっておくといいじゃろう。わざわざここに来たということは、もしかしたらお主に会いに来たのかもしれぬからのう」
アトラがパロットを投げてよこした。今まで石のように動きを止めていた体がふわりと動き、優雅に数回毒々しい羽を動かしたあと、パロットは俺の肩の上に止まった。それからはまたただの銅像のように動くことは無かった。
93.馬2
2008年6月14日―フォロッサ大図書館前
「まさか……こんな……」
調子に乗ったからいけないんだ。
「くそっ、俺の、俺のせいだって言うのか!?」
あそこの角を、直進していれば。
そうすればこんな事にはならなかったのに……!
「くそっ!!!」
モンスターなんかに興味を持たなければ。
奇妙なモンスターに乗り移動できる、そんなことに興味を持たずに、あのまま歩いてこればよかったんだ!!
なんてこった、ここまでか……ついに……
「ついに金が尽きた……!!」
まさか1万ミノもするなんて!
『珍しいパートナーに乗って目的地まで行ってみませんか?』なんてのにつられなきゃよかった!!
ちなみに図書館はほとんど直っていた。
――――
―フォロッサ城
「アトラ!」
「何じゃ馬鹿者」
かくなる上は、とフォロッサ城に乗り込んだ。前回あんな方法で城に押し入ったので、一悶着あるかと思ってたが、門番は快く中に入れてくれた上にアトラのいる部屋まで案内してくれた。ものすごく迷惑をかけてしまったから、今までの謝罪と今回のお礼をしたのだが、門番には不機嫌な顔で「さっさといけ」と言われた。何故だ。
アトラはのびのびと立派なイスに座っていた。それでも忙しいんだろう、書類に目を通しながらの対応だった。
「えっとだな」
こういうのは躊躇いは良くない。一気に言ってしまうんだ。
「あれだ!
金が無くなった!だから金をくれ!」
アトラに何らかのオーラが纏った気がした。それはつまり、まあ、怒りという奴だったのかもしれない。
「働けいッ!!」
鞭が足に絡みついた。そしてそのまま
"ぺいっ"
俺は門からはじき出された。
――30分後
「アトラ!」
「何じゃ」
言い方が悪かったんだ。うん。
「ただでとは言わない!貸してくれるだけでいいんだ!」
「返す気無かろう!国王にたかるんじゃない!」
"ぺいっ"
――1時間後
これでどうだ!?
「アトラ!金をくれたら将来サインをやるぞ!」
「ここでお主の将来を絶ってやろうかの」
「落ち着け!」
"ぺいっ"
――5時間後
「……アトラ!」
「……」
「……この前はほんとごめんな!俺お前にすっげー迷惑かけた!!ほんとごめん!!」
「許してやるわい、この大馬鹿者め!」
"ぺいっ"
何で!?
「まさか……こんな……」
調子に乗ったからいけないんだ。
「くそっ、俺の、俺のせいだって言うのか!?」
あそこの角を、直進していれば。
そうすればこんな事にはならなかったのに……!
「くそっ!!!」
モンスターなんかに興味を持たなければ。
奇妙なモンスターに乗り移動できる、そんなことに興味を持たずに、あのまま歩いてこればよかったんだ!!
なんてこった、ここまでか……ついに……
「ついに金が尽きた……!!」
まさか1万ミノもするなんて!
『珍しいパートナーに乗って目的地まで行ってみませんか?』なんてのにつられなきゃよかった!!
ちなみに図書館はほとんど直っていた。
――――
―フォロッサ城
「アトラ!」
「何じゃ馬鹿者」
かくなる上は、とフォロッサ城に乗り込んだ。前回あんな方法で城に押し入ったので、一悶着あるかと思ってたが、門番は快く中に入れてくれた上にアトラのいる部屋まで案内してくれた。ものすごく迷惑をかけてしまったから、今までの謝罪と今回のお礼をしたのだが、門番には不機嫌な顔で「さっさといけ」と言われた。何故だ。
アトラはのびのびと立派なイスに座っていた。それでも忙しいんだろう、書類に目を通しながらの対応だった。
「えっとだな」
こういうのは躊躇いは良くない。一気に言ってしまうんだ。
「あれだ!
金が無くなった!だから金をくれ!」
アトラに何らかのオーラが纏った気がした。それはつまり、まあ、怒りという奴だったのかもしれない。
「働けいッ!!」
鞭が足に絡みついた。そしてそのまま
"ぺいっ"
俺は門からはじき出された。
――30分後
「アトラ!」
「何じゃ」
言い方が悪かったんだ。うん。
「ただでとは言わない!貸してくれるだけでいいんだ!」
「返す気無かろう!国王にたかるんじゃない!」
"ぺいっ"
――1時間後
これでどうだ!?
「アトラ!金をくれたら将来サインをやるぞ!」
「ここでお主の将来を絶ってやろうかの」
「落ち着け!」
"ぺいっ"
――5時間後
「……アトラ!」
「……」
「……この前はほんとごめんな!俺お前にすっげー迷惑かけた!!ほんとごめん!!」
「許してやるわい、この大馬鹿者め!」
"ぺいっ"
何で!?
92.争
2008年6月14日「だーっ!これにも載ってねえ!」
「図書館ではお静かに」
俺はここ数日ずっと図書館に引きこもっていた。開館の時間には中に入り、本を読み漁りながら勉強をし、閉まるときに数冊本を借りて宿に戻る。
仕事もせずにこんな生活が出来ているのは遺跡の奴らが押し付けてきた"報酬"のおかげだが、その金ももう少なくなってきていた。
「だーかーらー!何だよこの『この部分は省略する』ってのは!」
「図書館ではお静かに!!」
そして何を騒いでいるのかと言うと、見つからないのだ、『性質』に関する詳しい記述が。クサモチの言っていた事程度ならいくつか載っていたが、それ以上のこととなるとほとんどが『省略する』で済ませている。
時々載っていた!と喜んでみると『『感情』を抑えましょう』とか、『怒ってみましょう、または笑顔になってみましょう』とかいうくだらない文だったりする。もちろんそれも試してはみたが、上手くいっているようには思えなかった。
「何が基本技術だクサモチめ!」
「図書館!!!」
もしかしたらフォロッサ大図書館の蔵書になら該当するものがあったのかもしれない。けれども大図書館は俺がカイドを離れるときに何者かの攻撃を受けて倒壊した。あれから結構な時間が経ったが、果たして直っているかは見当がつかない。
「まあ一度行ってみるとして」
「図書館では静かにしていたほうがいいと思うんです」
「今は静かだっただろ!?……ん?」
「遠くからでもウルトンさんがいるって丸わかりです」
本に集中していたので気付かなかったのか、さっきまで俺と争っていた図書館員はいなくなっていた。
代わりに理不尽な事を言ってのけたのは、またいつの間にか現れた【猫かぶり】だった。毎度毎度本当に猫みたいに気まぐれに現れる奴だ。
「久しぶりだな、あー……」
こいつにも謝らないと。心配して遺跡からずっとついてきてくれたこいつを俺は突き放してしまった。挙句には『死んでしまってもいい』なんてことも思ってしまった。素直に謝ろう。
「お前が何しようと俺には関係ねー。が、俺を慕ってここまで着いてきたのは褒めてやる。褒美を何かやろう」
うん、完璧な謝罪だ。
「別に慕ってないですし、それに褒美なんていらないです」
こいつは照れ屋なんだろうきっと。そうだいいことを思いついたぞ。
「あれだ、俺が魔法を教えてやるよ。大魔法使いウルトン様が師匠なんて鼻が高いぞお前!」
「……だから」
【猫かぶり】の声が若干強まった。あれ?何か怒ってる?
「私は魔法が使えないんです。ご丁寧に可能性0と診断されてるんですから。それに、興味も無いですし」
「興味、無いのか?まぁそれなら、……仕方ないけど」
【猫かぶり】の口調にもう荒立ったところは無かった。そんなに気にすることも無かったようだ。
「じゃあまたいつか、です」
その後しばらくして【猫かぶり】は帰っていった。しかし魔法に興味がないとは残念だ。魔法の素晴らしさを教え込んでやろうと思ってたのに。
まあ今は他人に構っている暇も無いのも事実。俺は俺のために頑張るとしよう。さしあたっては明日にでもフォロッサ大図書館に行って見るかな。
「図書館ではお静かに」
俺はここ数日ずっと図書館に引きこもっていた。開館の時間には中に入り、本を読み漁りながら勉強をし、閉まるときに数冊本を借りて宿に戻る。
仕事もせずにこんな生活が出来ているのは遺跡の奴らが押し付けてきた"報酬"のおかげだが、その金ももう少なくなってきていた。
「だーかーらー!何だよこの『この部分は省略する』ってのは!」
「図書館ではお静かに!!」
そして何を騒いでいるのかと言うと、見つからないのだ、『性質』に関する詳しい記述が。クサモチの言っていた事程度ならいくつか載っていたが、それ以上のこととなるとほとんどが『省略する』で済ませている。
時々載っていた!と喜んでみると『『感情』を抑えましょう』とか、『怒ってみましょう、または笑顔になってみましょう』とかいうくだらない文だったりする。もちろんそれも試してはみたが、上手くいっているようには思えなかった。
「何が基本技術だクサモチめ!」
「図書館!!!」
もしかしたらフォロッサ大図書館の蔵書になら該当するものがあったのかもしれない。けれども大図書館は俺がカイドを離れるときに何者かの攻撃を受けて倒壊した。あれから結構な時間が経ったが、果たして直っているかは見当がつかない。
「まあ一度行ってみるとして」
「図書館では静かにしていたほうがいいと思うんです」
「今は静かだっただろ!?……ん?」
「遠くからでもウルトンさんがいるって丸わかりです」
本に集中していたので気付かなかったのか、さっきまで俺と争っていた図書館員はいなくなっていた。
代わりに理不尽な事を言ってのけたのは、またいつの間にか現れた【猫かぶり】だった。毎度毎度本当に猫みたいに気まぐれに現れる奴だ。
「久しぶりだな、あー……」
こいつにも謝らないと。心配して遺跡からずっとついてきてくれたこいつを俺は突き放してしまった。挙句には『死んでしまってもいい』なんてことも思ってしまった。素直に謝ろう。
「お前が何しようと俺には関係ねー。が、俺を慕ってここまで着いてきたのは褒めてやる。褒美を何かやろう」
うん、完璧な謝罪だ。
「別に慕ってないですし、それに褒美なんていらないです」
こいつは照れ屋なんだろうきっと。そうだいいことを思いついたぞ。
「あれだ、俺が魔法を教えてやるよ。大魔法使いウルトン様が師匠なんて鼻が高いぞお前!」
「……だから」
【猫かぶり】の声が若干強まった。あれ?何か怒ってる?
「私は魔法が使えないんです。ご丁寧に可能性0と診断されてるんですから。それに、興味も無いですし」
「興味、無いのか?まぁそれなら、……仕方ないけど」
【猫かぶり】の口調にもう荒立ったところは無かった。そんなに気にすることも無かったようだ。
「じゃあまたいつか、です」
その後しばらくして【猫かぶり】は帰っていった。しかし魔法に興味がないとは残念だ。魔法の素晴らしさを教え込んでやろうと思ってたのに。
まあ今は他人に構っている暇も無いのも事実。俺は俺のために頑張るとしよう。さしあたっては明日にでもフォロッサ大図書館に行って見るかな。
S
2008年6月13日サド、僕はどちらかといえばサド寄り。
「いじめて楽しむ」という気持ちがわかるのでサドはある程度表現できるけど
「いじめられて喜ぶ」っていうマゾの気持ちが良くわかりません。
ミヤイニレは「直接的に攻めるサド」
お姉さんは「間接的に攻めるサド」
例で言うなら虹が描きたいといっている人に対し
全部黒のクレヨンが入った入れ物を渡すのがミヤイニレで
黒1本丸まる残っているのと1cmぐらいしか残っていない色クレヨンが入っている入れ物を渡すのがお姉さん。
……あれ?お姉さん結構ひどくね?
ま、まあきっと意地悪したくなった気分のときだけだよ!
あときっとすぐにフォローするよ!うん!
「いじめて楽しむ」という気持ちがわかるのでサドはある程度表現できるけど
「いじめられて喜ぶ」っていうマゾの気持ちが良くわかりません。
ミヤイニレは「直接的に攻めるサド」
お姉さんは「間接的に攻めるサド」
例で言うなら虹が描きたいといっている人に対し
全部黒のクレヨンが入った入れ物を渡すのがミヤイニレで
黒1本丸まる残っているのと1cmぐらいしか残っていない色クレヨンが入っている入れ物を渡すのがお姉さん。
……あれ?お姉さん結構ひどくね?
ま、まあきっと意地悪したくなった気分のときだけだよ!
あときっとすぐにフォローするよ!うん!
91.無題 (90.から)
2008年6月12日「めんどくさい……
魔法を見せてみろ。一瞬で良い。
……やっぱりウルトンは基本がなっていない。
魔術の基本は、そう、イメージを『個別化』することと『固定化』して現象にすること。
だけど、それ以前の基本技術、お前にはそれが無い。
それは、『属性』と『性質』の繋がり。……これを欠くと全ての性能が落ちる。
『性質』は個人の得意属性にも関わる。最初から決められている『才能』に近いものがある。ただ個人の『性質』は変化する。
意図的に『性質』を大きく変化させることは難しい。……けど小さくなら個人の意思で動かすことが出来る、それを『感情』と呼ぶ。
【炎魔法】は【我が道の貫き】
【水魔法】は【偽りなき慈愛】
【雷魔法】は【留めぬ思考】
【氷魔法】は【動じぬ心】
または
【炎魔法】は『情熱』や『怒り』
【水魔法】は『誠実』や『慈しみ』
【雷魔法】は『英知』や『策略』
【氷魔法】は『冷静』や『冷徹』
例外は、ある。どんなものにも。
意味的には『個別化』に近いものがある、けれど完璧な『性質』操作は比にならないほど難しい。
だからこそ、『性質』を利用。……そこにはウルトンの求める上達がある。
……疲れた」
そして、クサモチとは思えないほどの、長い説明をしてその場を去っていった。
魔法を見せてみろ。一瞬で良い。
……やっぱりウルトンは基本がなっていない。
魔術の基本は、そう、イメージを『個別化』することと『固定化』して現象にすること。
だけど、それ以前の基本技術、お前にはそれが無い。
それは、『属性』と『性質』の繋がり。……これを欠くと全ての性能が落ちる。
『性質』は個人の得意属性にも関わる。最初から決められている『才能』に近いものがある。ただ個人の『性質』は変化する。
意図的に『性質』を大きく変化させることは難しい。……けど小さくなら個人の意思で動かすことが出来る、それを『感情』と呼ぶ。
【炎魔法】は【我が道の貫き】
【水魔法】は【偽りなき慈愛】
【雷魔法】は【留めぬ思考】
【氷魔法】は【動じぬ心】
または
【炎魔法】は『情熱』や『怒り』
【水魔法】は『誠実』や『慈しみ』
【雷魔法】は『英知』や『策略』
【氷魔法】は『冷静』や『冷徹』
例外は、ある。どんなものにも。
意味的には『個別化』に近いものがある、けれど完璧な『性質』操作は比にならないほど難しい。
だからこそ、『性質』を利用。……そこにはウルトンの求める上達がある。
……疲れた」
そして、クサモチとは思えないほどの、長い説明をしてその場を去っていった。
90.輝 (96.から)
2008年6月11日―ジャスティスとミンティス
「分かった。リーダーを探すのはオレたちに任せろ」
「お任せだね!それで見つけたらカイドに連れてこればいいんだね?」
―リペノ
「僕はもう少しカイドを見て回ろうと思います。
あ、シムシの兵をやっていたことはバレないよう慎重に行動するので大丈夫です」
―――俺
「本当に、今日はツイているっていうか、いろんなことに縁があるって言うか……」
運が見える奴がいるなら、今日の俺はその輝きで満ちているんじゃないか?
適当に歩いて、適当についた街の、適当に選んだ図書館の、適当に進んだ先にあった窓際の長机。そこにそいつはいた。
「アトラが言ってた"奴"ってのはこいつのことだったのか」
緑尽くめのそいつは机に突っ伏して眠っていた。まるでモズクみたいだ。こいつの名前はこれからモズクにすればいいんじゃないのか。
「やーいモズク。おいこら起きろこのモズク。海のモズクにするぞこのモズク野郎。起きろっつってんだろこのモズクサモチ!」
「殺す」
閃光が走り、そして俺は気絶した。
―――
誰かに運ばれたのか、目が覚めるとそこは児童書コーナーのソファーの上だった。Liveの世界に児童という概念があるのかは分からないが、ここには児童向けの本以外にも初心者向けの魔法の本なども少しは用意されている。
「……」
クサモチはふわふわのソファーに体を沈み込ませながら本を読んでいた。俺が起きたのには気づいたようだが、いつもどおり一向に無口だった。
「久しぶりに会った俺様に対していきなり攻撃してくるとは、何様のつもりだこのクサモチめ」
クサモチは普段滅多にしゃべらない。だがこっちが矢継ぎ早に言葉を繰り出せば、最後には実に嫌な顔をして言葉を返してくれる。俺はその顔が嫌いじゃない。これが俺たちの会話のキャッチボールだ。
「……ウルトン。
……誰だっけ?」
……
「てめええええええええええええええええ」
少し、ショックだ。
「あぁ、思い出した。あの面倒な奴か」
どんな覚え方だよ。まあいい、覚えてただけマシと考えよう。
「ハッ、俺のほうはお前のことなんてほとんど記憶にのこってねーけどな!
俺は勉強をしにわざわざこの図書館に来てやったんだ。俺ほどの魔法使いに来てもらえるとはこの図書館もありがたいな!」
クサモチはそうか、と言ったっきり本に視線を戻した。
ここでクサモチに会えたのは相当運が良かったと思う。人にばかり頼るのは癪だが、独学では限界があるのは分かっていた。俺のような奴がこれ以上成長するには、誰かの指導がまだまだ必要だ。もちろん一人で魔法について考えることも重要だから怠ることはしないが。
「ところでお前今暇か?」
返事は無かった。本から視線を全く外しすらしない。
これは『見れば分かるだろ』という気持ちを体全体で表現しているんだ。ああ見ればわかる、バリバリ暇なんだろ?
「そうか暇か。なら俺に魔法を教えるべきだと思わないか?教えなきゃアトラにお前がここにいるってこと言いつけるぞ。どうせ勤務中なんだろ?」
『その前に殺す』という選択肢を選ばれるかと思ったが、脅しの効果はあったようだ。
クサモチはソファーから体を起こし、そして……
「分かった。リーダーを探すのはオレたちに任せろ」
「お任せだね!それで見つけたらカイドに連れてこればいいんだね?」
―リペノ
「僕はもう少しカイドを見て回ろうと思います。
あ、シムシの兵をやっていたことはバレないよう慎重に行動するので大丈夫です」
―――俺
「本当に、今日はツイているっていうか、いろんなことに縁があるって言うか……」
運が見える奴がいるなら、今日の俺はその輝きで満ちているんじゃないか?
適当に歩いて、適当についた街の、適当に選んだ図書館の、適当に進んだ先にあった窓際の長机。そこにそいつはいた。
「アトラが言ってた"奴"ってのはこいつのことだったのか」
緑尽くめのそいつは机に突っ伏して眠っていた。まるでモズクみたいだ。こいつの名前はこれからモズクにすればいいんじゃないのか。
「やーいモズク。おいこら起きろこのモズク。海のモズクにするぞこのモズク野郎。起きろっつってんだろこのモズクサモチ!」
「殺す」
閃光が走り、そして俺は気絶した。
―――
誰かに運ばれたのか、目が覚めるとそこは児童書コーナーのソファーの上だった。Liveの世界に児童という概念があるのかは分からないが、ここには児童向けの本以外にも初心者向けの魔法の本なども少しは用意されている。
「……」
クサモチはふわふわのソファーに体を沈み込ませながら本を読んでいた。俺が起きたのには気づいたようだが、いつもどおり一向に無口だった。
「久しぶりに会った俺様に対していきなり攻撃してくるとは、何様のつもりだこのクサモチめ」
クサモチは普段滅多にしゃべらない。だがこっちが矢継ぎ早に言葉を繰り出せば、最後には実に嫌な顔をして言葉を返してくれる。俺はその顔が嫌いじゃない。これが俺たちの会話のキャッチボールだ。
「……ウルトン。
……誰だっけ?」
……
「てめええええええええええええええええ」
少し、ショックだ。
「あぁ、思い出した。あの面倒な奴か」
どんな覚え方だよ。まあいい、覚えてただけマシと考えよう。
「ハッ、俺のほうはお前のことなんてほとんど記憶にのこってねーけどな!
俺は勉強をしにわざわざこの図書館に来てやったんだ。俺ほどの魔法使いに来てもらえるとはこの図書館もありがたいな!」
クサモチはそうか、と言ったっきり本に視線を戻した。
ここでクサモチに会えたのは相当運が良かったと思う。人にばかり頼るのは癪だが、独学では限界があるのは分かっていた。俺のような奴がこれ以上成長するには、誰かの指導がまだまだ必要だ。もちろん一人で魔法について考えることも重要だから怠ることはしないが。
「ところでお前今暇か?」
返事は無かった。本から視線を全く外しすらしない。
これは『見れば分かるだろ』という気持ちを体全体で表現しているんだ。ああ見ればわかる、バリバリ暇なんだろ?
「そうか暇か。なら俺に魔法を教えるべきだと思わないか?教えなきゃアトラにお前がここにいるってこと言いつけるぞ。どうせ勤務中なんだろ?」
『その前に殺す』という選択肢を選ばれるかと思ったが、脅しの効果はあったようだ。
クサモチはソファーから体を起こし、そして……
89.新(86と交換)
2008年6月11日 それからなぜか意気投合した俺たちはサクッとお互いの情報交換をしあった。
お姉さんとスノウの関係、驚くことに親友同士だったらしい。ますますスノウに直接話を聞かなきゃならないな。
他には各国の状況や俺たち自身のことを話した。ジャスティスとミンティスはなかなかいい奴らだった。どうやら二人にはもう一人ツレがいるらしいが今は別行動をしているらしい。将来、いや今もだが、大魔法使いになるという俺をぜひ紹介したいというのでそいつに会うために待ってみることにした。
しばらく雑談を交えていると、ミンティスが「あっ来たよ!」と言った。俺が相手の顔を確認しようと振り向く前に、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。
「ウルトンさん!?」
練達した剣士には全く見えない小さな背に、世のロングヘアー派を敵に回すショートの青髪……まあぶっちゃけて言えばリペノだった。両手には買い物袋を数個ぶら下げている。
「何でお前が……」
「あれ!?リペノちゃんが探してたのってもしかしてこの人なの?
うわーすごい運命的だよ!ねえジャスもそう思うよね!」
カイドにいるんだ、という言葉はミンティスのやかましい声でかき消された。
「何言ってんだ。オレは分かってたからコイツに待ってろって言ったんだぜ?」
話から察するに、リペノはこいつらと一緒に行動していた。そして俺に会うためにカイドに来ていたようだ。【灰身】だと分かって行動してたのか?という疑問はさておき、何でリペノが俺を?
あれか、あまりの俺のかっこよさに惚れてしまっていてもたってもいられなかったとか、きっとそういうことだな。そうに違いない。
「もしかしてもしかしてだよ!リペノちゃんの思い人って、ウルトンくんだったりするの!?」
「え゛、ありえません……」
てめえ即答かこのヤロー!
「それに"思い人"って……僕にとってポチさんはそういう存在じゃないし……
あっでも……もし、こ、告白なんかされちゃったら、わ、わたしどうしよう、でも!ポチさんにはいつまででも僕の心の師匠でいてもらいたいですし!?ああでも、もし、どうしよう!!」
「えっ、何?詳しく教えてよ!」
唐突に妄想ワールドが広がった。とてもついていけない、むしろついていってはダメな気までした。ジャスティスは一言「いつものことだ」とだけ残して海を眺め始めたので、俺もそうすることにした。
――
「で、何で俺を探してたんだよ」
「えっと、心配してたというか何と言うか」
結局妄想は30分以上に渡った。
「でも、大丈夫だったみたいですね」
「な、何だよ」
リペノはまるでお姉さんの【読心術】のように俺の目をまっすぐに見つめていた。…目は口ほどになんとかというやつだろうか。自覚は無かったが、俺は今まで相当ひどい表情をしていたのかもしれない。
―
さて、これからどうしよう?
スノウを探すのは……時間がかかりそうだ。ジャスティス達にでもやらせればいいな。他ならぬ俺の頼みだ、喜んで引き受けてくれるだろう。あの遺跡も気になるが、まぁグィンが何とかしてるだろう。
それにアトラに謝りにも行かないとな。……これはすぐ行くと格好がつかないからしばらく後にしよう。
そういやアトラといえば……
(『頭が冷えたら……カイド中の図書館を回ってみると良いぞ』
図書館、か。……俺のLiveの始まりはカイドの図書館だ。そこで魔法を習い、お姉さんと出会った。それより以前に半裸変態やスキンヘッド変態とかがいたような記憶は無い、断じて無い。
新しいスタートを切るのが図書館ってのは悪くない。いい加減お姉さんに貰った本(『中級者-上級者との圧倒的な差-』)も読みすぎてボロボロになってきたし、カイド中の図書館を回ってみるか!
お姉さんとスノウの関係、驚くことに親友同士だったらしい。ますますスノウに直接話を聞かなきゃならないな。
他には各国の状況や俺たち自身のことを話した。ジャスティスとミンティスはなかなかいい奴らだった。どうやら二人にはもう一人ツレがいるらしいが今は別行動をしているらしい。将来、いや今もだが、大魔法使いになるという俺をぜひ紹介したいというのでそいつに会うために待ってみることにした。
しばらく雑談を交えていると、ミンティスが「あっ来たよ!」と言った。俺が相手の顔を確認しようと振り向く前に、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。
「ウルトンさん!?」
練達した剣士には全く見えない小さな背に、世のロングヘアー派を敵に回すショートの青髪……まあぶっちゃけて言えばリペノだった。両手には買い物袋を数個ぶら下げている。
「何でお前が……」
「あれ!?リペノちゃんが探してたのってもしかしてこの人なの?
うわーすごい運命的だよ!ねえジャスもそう思うよね!」
カイドにいるんだ、という言葉はミンティスのやかましい声でかき消された。
「何言ってんだ。オレは分かってたからコイツに待ってろって言ったんだぜ?」
話から察するに、リペノはこいつらと一緒に行動していた。そして俺に会うためにカイドに来ていたようだ。【灰身】だと分かって行動してたのか?という疑問はさておき、何でリペノが俺を?
あれか、あまりの俺のかっこよさに惚れてしまっていてもたってもいられなかったとか、きっとそういうことだな。そうに違いない。
「もしかしてもしかしてだよ!リペノちゃんの思い人って、ウルトンくんだったりするの!?」
「え゛、ありえません……」
てめえ即答かこのヤロー!
「それに"思い人"って……僕にとってポチさんはそういう存在じゃないし……
あっでも……もし、こ、告白なんかされちゃったら、わ、わたしどうしよう、でも!ポチさんにはいつまででも僕の心の師匠でいてもらいたいですし!?ああでも、もし、どうしよう!!」
「えっ、何?詳しく教えてよ!」
唐突に妄想ワールドが広がった。とてもついていけない、むしろついていってはダメな気までした。ジャスティスは一言「いつものことだ」とだけ残して海を眺め始めたので、俺もそうすることにした。
――
「で、何で俺を探してたんだよ」
「えっと、心配してたというか何と言うか」
結局妄想は30分以上に渡った。
「でも、大丈夫だったみたいですね」
「な、何だよ」
リペノはまるでお姉さんの【読心術】のように俺の目をまっすぐに見つめていた。…目は口ほどになんとかというやつだろうか。自覚は無かったが、俺は今まで相当ひどい表情をしていたのかもしれない。
―
さて、これからどうしよう?
スノウを探すのは……時間がかかりそうだ。ジャスティス達にでもやらせればいいな。他ならぬ俺の頼みだ、喜んで引き受けてくれるだろう。あの遺跡も気になるが、まぁグィンが何とかしてるだろう。
それにアトラに謝りにも行かないとな。……これはすぐ行くと格好がつかないからしばらく後にしよう。
そういやアトラといえば……
(『頭が冷えたら……カイド中の図書館を回ってみると良いぞ』
図書館、か。……俺のLiveの始まりはカイドの図書館だ。そこで魔法を習い、お姉さんと出会った。それより以前に半裸変態やスキンヘッド変態とかがいたような記憶は無い、断じて無い。
新しいスタートを切るのが図書館ってのは悪くない。いい加減お姉さんに貰った本(『中級者-上級者との圧倒的な差-』)も読みすぎてボロボロになってきたし、カイド中の図書館を回ってみるか!
俺が魔法を使うのと、奴が矢を放つのはほぼ同時だった。本来なら矢は俺の頭に突き刺さっていただろう。だが俺が詠唱したのは【水魔法:水衣】、これなら相手の攻撃を弾く事ができる。はずだった。
「ッ!?」
発動は失敗だった。【水衣】が体を覆う前に、唐突に弾けて消えた。矢は頭ではなく俺の肩に突き刺さった、少しは軌道を逸らせていたようだ。浅く致命傷になる場所ではないのは運が良かった。
傷は気にしない。怯んで一瞬でも行動が遅れたら、次こそ矢が俺の頭を貫通する。それだけは避ける、なるべく早く、詠唱!
「【炎魔法】!!!!」
一瞬にして炎が敵を2人同時に包む。今度は手加減しねえ、渦をもっと高く、もっと狭く!上下左右、全てを炎で覆ってやる!
「てめえらみてえなイカれた集団が正義だなんだとぬかしてんじゃねえ!
Liveを純粋に楽しもうとしている奴らを苦しめていることを知れ!!」
「確かに否定はしないと言ったが、コレだけは断言する。少なくともオレとコイツはそんな正義は掲げちゃいない。
そして【灰身】も間違いに気付いた。だからオマエに説教される筋合いは無い!」
「んだと!?」
ふざけんな、詭弁をぬけぬけと。【炎耐性】の道具があるからしばらくは平気なのかもしれないが、そんな減らず口叩けなくしてやる。絶対に、そう簡単には許さねえ!
「確かにそんな正義を掲げた【灰身】、いやリーダーを止められなかったのはオレ達のせいだ。
それは認めなきゃいけない事実だ。だがな」
ふと【炎魔法】の動きが不自然に止まった。まるでその空間だけが停止しているかのようだ。俺はほとんど蒸し焼きにするつもりで炎を流動させている。こんな一部分だけが止まるなんて事はありえない。一つだけ思い当たる事があった、けどまさか……
「まだ修正が効く。効くからには終わらせない。オレのLiveもコイツのLiveも、他の皆のLiveも終わらせない!
ソレがオレの正義だ!!」
炎に線が入り、そして切れた。俺が流動させているはずの炎に次々に線が入り細かくなり端に寄せられていく。そしてついには正面には何も無くなり2人のプレイヤーの姿がはっきりと見えるまでになった。
男は弓を剣のように構えている。恐らく炎を切ったのはあの男だが、止めたのはあの女の力。だけど、そんなことはもうどうでもいい。こいつを説き伏せる、それが俺のやることだ!!
「どんな自己中だ!ざけてんじゃねーぞ!!」
「自己中だろうがなんだろうが、オレはオレの正義を貫く。
リーダーにも正義がある。その正義がまた捻じ曲がったら今度はオレが止める」
「止めるだと!?お前等がやらないから俺が止めるんじゃねーか!!訳わかんねーこといってんじゃねえ!」
「訳分からないのはオマエだろ!」
「え、えーと、喧嘩はやめよ?ねっ?」
「「黙ってろ!!」」
「はいっ!?」
お互い息が上がっていた。もう攻撃する機は無かった。ただ、問いただしたい。
「……お前等が止められなかったその正義が、スノウって奴が俺の大事な人を殺したんだ」
「……」
「【灰身】のメンバーだったらしい。【灰身】を止めたくて、それで殺された。
ユツキって名前だ。知ってるか?」
「!?」
男のほうも女のもほうも、すごく驚いているようだった。俺はてっきり、【灰身】は、お姉さんを殺すつもりでいるのだと思っていた。だから殺したんだと思っていたのに、違うのか?
「ユツキさんを、リーダーが……?嘘……?」
「信じられない、いや、あの状態ならありえない、とも言い切れない、か」
何だ?スノウとお姉さんには何か特殊な関係でもあったのか?
【灰身】を脱退したプレイヤーとそれを追う【灰身】のリーダー。ただそういう関係なんだと思っていた。だがこいつらの反応からすると、殺しあうような関係ではないように思えてくる。むしろとても仲が良かったようにさえ感じる。
「そういう事情があるなら、オマエがオレ達を殺そうとするのは否定できない。だがオレ達は殺されようとは思わない」
「……殺そうとは思っちゃいねーよ。恨みが無いとも言わない。すげームカツクし、一発ぐらいなら殴ってやりたいがな。
だが、お前達にLiveのプレイヤー達を苦しめる気がないのはわかった。
あとのもやもやは、スノウって奴に直接聞くことにする」
これでいい。こいつらの事情は大体分かった。恨みに任せて人を傷つけたら、それこそPKだ。俺は……
「一つ聞きたい。オマエの正義は何だ?」
ジャスティスは唐突に関係のない質問をした。俺個人に興味を持ったのかもしれない。
「俺の正義は」
『ウルトンさんがこのLive世界でやりたいこととは何ですか?』
『カイドで一番の究極の魔法使いになることです』
「カイドで最も優秀な、究極の魔法使いになって」
『ではウルトンさんにとって究極の魔法使いとは何ですか?』
「俺の力で、全てのプレイヤーを、幸せにすることだ」
『今は解らなくても、ウルトンさんならいずれ自分だけの答えに辿り着きます』
「俺は、このLive世界でそれがしたい。
それが俺の、やるべきことだ。」
俺はずっと考えていた。何でも実現できるこの世界で、幸せじゃない人がいるのは間違っている。
お姉さんがいなくなっても、この気持ちは変わらない。どんなに辛くてもやり遂げてみせる。
「ッ!?」
発動は失敗だった。【水衣】が体を覆う前に、唐突に弾けて消えた。矢は頭ではなく俺の肩に突き刺さった、少しは軌道を逸らせていたようだ。浅く致命傷になる場所ではないのは運が良かった。
傷は気にしない。怯んで一瞬でも行動が遅れたら、次こそ矢が俺の頭を貫通する。それだけは避ける、なるべく早く、詠唱!
「【炎魔法】!!!!」
一瞬にして炎が敵を2人同時に包む。今度は手加減しねえ、渦をもっと高く、もっと狭く!上下左右、全てを炎で覆ってやる!
「てめえらみてえなイカれた集団が正義だなんだとぬかしてんじゃねえ!
Liveを純粋に楽しもうとしている奴らを苦しめていることを知れ!!」
「確かに否定はしないと言ったが、コレだけは断言する。少なくともオレとコイツはそんな正義は掲げちゃいない。
そして【灰身】も間違いに気付いた。だからオマエに説教される筋合いは無い!」
「んだと!?」
ふざけんな、詭弁をぬけぬけと。【炎耐性】の道具があるからしばらくは平気なのかもしれないが、そんな減らず口叩けなくしてやる。絶対に、そう簡単には許さねえ!
「確かにそんな正義を掲げた【灰身】、いやリーダーを止められなかったのはオレ達のせいだ。
それは認めなきゃいけない事実だ。だがな」
ふと【炎魔法】の動きが不自然に止まった。まるでその空間だけが停止しているかのようだ。俺はほとんど蒸し焼きにするつもりで炎を流動させている。こんな一部分だけが止まるなんて事はありえない。一つだけ思い当たる事があった、けどまさか……
「まだ修正が効く。効くからには終わらせない。オレのLiveもコイツのLiveも、他の皆のLiveも終わらせない!
ソレがオレの正義だ!!」
炎に線が入り、そして切れた。俺が流動させているはずの炎に次々に線が入り細かくなり端に寄せられていく。そしてついには正面には何も無くなり2人のプレイヤーの姿がはっきりと見えるまでになった。
男は弓を剣のように構えている。恐らく炎を切ったのはあの男だが、止めたのはあの女の力。だけど、そんなことはもうどうでもいい。こいつを説き伏せる、それが俺のやることだ!!
「どんな自己中だ!ざけてんじゃねーぞ!!」
「自己中だろうがなんだろうが、オレはオレの正義を貫く。
リーダーにも正義がある。その正義がまた捻じ曲がったら今度はオレが止める」
「止めるだと!?お前等がやらないから俺が止めるんじゃねーか!!訳わかんねーこといってんじゃねえ!」
「訳分からないのはオマエだろ!」
「え、えーと、喧嘩はやめよ?ねっ?」
「「黙ってろ!!」」
「はいっ!?」
お互い息が上がっていた。もう攻撃する機は無かった。ただ、問いただしたい。
「……お前等が止められなかったその正義が、スノウって奴が俺の大事な人を殺したんだ」
「……」
「【灰身】のメンバーだったらしい。【灰身】を止めたくて、それで殺された。
ユツキって名前だ。知ってるか?」
「!?」
男のほうも女のもほうも、すごく驚いているようだった。俺はてっきり、【灰身】は、お姉さんを殺すつもりでいるのだと思っていた。だから殺したんだと思っていたのに、違うのか?
「ユツキさんを、リーダーが……?嘘……?」
「信じられない、いや、あの状態ならありえない、とも言い切れない、か」
何だ?スノウとお姉さんには何か特殊な関係でもあったのか?
【灰身】を脱退したプレイヤーとそれを追う【灰身】のリーダー。ただそういう関係なんだと思っていた。だがこいつらの反応からすると、殺しあうような関係ではないように思えてくる。むしろとても仲が良かったようにさえ感じる。
「そういう事情があるなら、オマエがオレ達を殺そうとするのは否定できない。だがオレ達は殺されようとは思わない」
「……殺そうとは思っちゃいねーよ。恨みが無いとも言わない。すげームカツクし、一発ぐらいなら殴ってやりたいがな。
だが、お前達にLiveのプレイヤー達を苦しめる気がないのはわかった。
あとのもやもやは、スノウって奴に直接聞くことにする」
これでいい。こいつらの事情は大体分かった。恨みに任せて人を傷つけたら、それこそPKだ。俺は……
「一つ聞きたい。オマエの正義は何だ?」
ジャスティスは唐突に関係のない質問をした。俺個人に興味を持ったのかもしれない。
「俺の正義は」
『ウルトンさんがこのLive世界でやりたいこととは何ですか?』
『カイドで一番の究極の魔法使いになることです』
「カイドで最も優秀な、究極の魔法使いになって」
『ではウルトンさんにとって究極の魔法使いとは何ですか?』
「俺の力で、全てのプレイヤーを、幸せにすることだ」
『今は解らなくても、ウルトンさんならいずれ自分だけの答えに辿り着きます』
「俺は、このLive世界でそれがしたい。
それが俺の、やるべきことだ。」
俺はずっと考えていた。何でも実現できるこの世界で、幸せじゃない人がいるのは間違っている。
お姉さんがいなくなっても、この気持ちは変わらない。どんなに辛くてもやり遂げてみせる。
87.炎
2008年6月5日 気付くと【猫】からプレイヤーネームと場所を聞き出して走り出していた。
向かってどうする?殺すのか?仇を取るってのはそういう事なのか?お姉さんは【灰身】を止めたがっていた。ならとりあえず、とっ捕まえて問い詰める!そして必要なら、俺が止める。恨みが全く無いわけじゃない。だけどそれが意思を継ぐって事だろ!
しばらく走った先の、海沿いの通りに2人はいた。
金髪の派手な男と、濃いサーモンピンクの髪の快活な性格をしてそうな女。【ネーム:確認】【ジャスティス】・【ミンティス】間違いない。
「おい!そこの2人!」
不意打ち、男がこちらを振り向いたときにはもう詠唱は終わらせていた。
【炎魔法】で2人のプレイヤーを炎の渦に閉じ込める。散々使ってきた魔法だ、ダメージを与えずに動きだけを封じるように発動させる事は楽だった。
「【灰身】だな。大人しく質問に答えるんなら、危害は加えない」
相手は何をしてくるか分からない。問い詰める側は、高圧的に、優位に立つのが常識だ。
「……気に入らないな。ソレが質問する側の態度か?」
「ジャス!大人しく従おうよ!燃えちゃうよ!!」
女のほうは従順だったが、男のほうはきわめて冷静で怒りを含んだ舐めた反応だった。とりあえず、どう喚こうがこいつらは俺に従うしかない、と思っていた。が。
「燃えたくないなら、こうすればいい!」
男が叫んだ。
「え?ちょっうわああああああ!!」
同時に女が悲鳴と共に"炎の外"へ落下してきた。炎の渦はプレイヤーの周囲を流動するだけで、上はがら空きで何もない。つまり女はそこから出てきたということになる。恐らく男が投げ飛ばしたんだろうが、普通そんなことしようとしないだろう馬鹿か。
「あいたたた……ジャスひど……」
女の体のどこにも火がついていないのは、さっきまで男のほうがつけていた真紅のマントを羽織っていることに関係するんだろう。恐らく【炎耐性】効果つきのアイテムか何かだ。それでも炎の壁を突っ切ってこなかった事を考えると万能じゃないってことだ。
「やれ!ミン!」
「う、うん」
男が炎の中から叫ぶ。何をさせるつもりなのか知らねーが、この女に大した戦闘能力があるとは思えない。でも相手は【灰身】だ、舐めちゃ……
「あたしの正義が、あなたを裁く!」
……本人は真剣なのかもしれないが、迫力も何もない。もしかしたら単純にこっちが舐められているだけなのかもしれない。
さてどうするか、2個の炎の渦を維持することは俺には無理。なら一時的に炎を解くか?でもそれが相手の狙いかもしれないし……
「むんっ」
情けない声が聞こえたと思った瞬間、俺の体が急に動かなくなった。何だこれは?動かそうとしても、壁にでも埋まったかのように指先すらピクリともしない。これがあの女の力なのか?反則だろ、やばい、声もでねえ!
魔法と言うのはイメージの力、高等な魔法使いになると、純粋にイメージだけで魔法を自在に操ることができるらしい。だけど俺はまだ、魔法を持続させるのにも定期的な詠唱が必要だ。
つまり今の状況イコール口が動かないイコール詠唱ができないイコール魔法が持続できないイコール……
「さあ、今度はコチラが質問する側だぜ」
火力が収まった炎から出てきた金髪男が、高圧的にそう言った。どこから取り出したのか分からないが、金属製のマントと同じ真紅の弓を構えている。矢は既につがえられていて、俺の頭を一直線に狙っていた。
「妙な気は起こすなよ。オマエが少しでもおかしな動きをしたら、その時点で命は無くなると思え。ミン、もういいぞ」
男の言葉によって女から威圧感が消えたと同時に、俺の体は自由になった。自由にはなったが、もう既に動く事はできない。
「ではコチラから質問する。オマエはオレ達に何を聞こうとしてたのか、だ」
つまり俺の質問には答えてくれるっていうことだ。さっきと変わっているのは立場が逆転している事だけだ。それがかなり大きい。屈辱的だが、それ以上に優位性を失ったことはかなり痛い。だが俺のやることは変わらない。
「お前ら【灰身】は、何で人を殺す」
単刀直入に。最も聞きたい事だけを聞く。
「【灰身】の正義をオレが理解しているのかは分からないが、オレ達がPKKをするのはソレがオレ達の正義だからだ」
「じゃあお前等の正義ってのは、罪も無い奴らを殺すのか?それが正義だって言うのかよ」
もし、そうならば、【灰身】は本当にどうしようもないほど、悪党で。そんな奴らに、お姉さんは殺されたってことか?もしそうなら……
「……確かに、【灰身】の正義にそれが含まれていた、かもしれない。それはオレには否定できない」
「っざけんな!」
俺がこいつらを止める!!
向かってどうする?殺すのか?仇を取るってのはそういう事なのか?お姉さんは【灰身】を止めたがっていた。ならとりあえず、とっ捕まえて問い詰める!そして必要なら、俺が止める。恨みが全く無いわけじゃない。だけどそれが意思を継ぐって事だろ!
しばらく走った先の、海沿いの通りに2人はいた。
金髪の派手な男と、濃いサーモンピンクの髪の快活な性格をしてそうな女。【ネーム:確認】【ジャスティス】・【ミンティス】間違いない。
「おい!そこの2人!」
不意打ち、男がこちらを振り向いたときにはもう詠唱は終わらせていた。
【炎魔法】で2人のプレイヤーを炎の渦に閉じ込める。散々使ってきた魔法だ、ダメージを与えずに動きだけを封じるように発動させる事は楽だった。
「【灰身】だな。大人しく質問に答えるんなら、危害は加えない」
相手は何をしてくるか分からない。問い詰める側は、高圧的に、優位に立つのが常識だ。
「……気に入らないな。ソレが質問する側の態度か?」
「ジャス!大人しく従おうよ!燃えちゃうよ!!」
女のほうは従順だったが、男のほうはきわめて冷静で怒りを含んだ舐めた反応だった。とりあえず、どう喚こうがこいつらは俺に従うしかない、と思っていた。が。
「燃えたくないなら、こうすればいい!」
男が叫んだ。
「え?ちょっうわああああああ!!」
同時に女が悲鳴と共に"炎の外"へ落下してきた。炎の渦はプレイヤーの周囲を流動するだけで、上はがら空きで何もない。つまり女はそこから出てきたということになる。恐らく男が投げ飛ばしたんだろうが、普通そんなことしようとしないだろう馬鹿か。
「あいたたた……ジャスひど……」
女の体のどこにも火がついていないのは、さっきまで男のほうがつけていた真紅のマントを羽織っていることに関係するんだろう。恐らく【炎耐性】効果つきのアイテムか何かだ。それでも炎の壁を突っ切ってこなかった事を考えると万能じゃないってことだ。
「やれ!ミン!」
「う、うん」
男が炎の中から叫ぶ。何をさせるつもりなのか知らねーが、この女に大した戦闘能力があるとは思えない。でも相手は【灰身】だ、舐めちゃ……
「あたしの正義が、あなたを裁く!」
……本人は真剣なのかもしれないが、迫力も何もない。もしかしたら単純にこっちが舐められているだけなのかもしれない。
さてどうするか、2個の炎の渦を維持することは俺には無理。なら一時的に炎を解くか?でもそれが相手の狙いかもしれないし……
「むんっ」
情けない声が聞こえたと思った瞬間、俺の体が急に動かなくなった。何だこれは?動かそうとしても、壁にでも埋まったかのように指先すらピクリともしない。これがあの女の力なのか?反則だろ、やばい、声もでねえ!
魔法と言うのはイメージの力、高等な魔法使いになると、純粋にイメージだけで魔法を自在に操ることができるらしい。だけど俺はまだ、魔法を持続させるのにも定期的な詠唱が必要だ。
つまり今の状況イコール口が動かないイコール詠唱ができないイコール魔法が持続できないイコール……
「さあ、今度はコチラが質問する側だぜ」
火力が収まった炎から出てきた金髪男が、高圧的にそう言った。どこから取り出したのか分からないが、金属製のマントと同じ真紅の弓を構えている。矢は既につがえられていて、俺の頭を一直線に狙っていた。
「妙な気は起こすなよ。オマエが少しでもおかしな動きをしたら、その時点で命は無くなると思え。ミン、もういいぞ」
男の言葉によって女から威圧感が消えたと同時に、俺の体は自由になった。自由にはなったが、もう既に動く事はできない。
「ではコチラから質問する。オマエはオレ達に何を聞こうとしてたのか、だ」
つまり俺の質問には答えてくれるっていうことだ。さっきと変わっているのは立場が逆転している事だけだ。それがかなり大きい。屈辱的だが、それ以上に優位性を失ったことはかなり痛い。だが俺のやることは変わらない。
「お前ら【灰身】は、何で人を殺す」
単刀直入に。最も聞きたい事だけを聞く。
「【灰身】の正義をオレが理解しているのかは分からないが、オレ達がPKKをするのはソレがオレ達の正義だからだ」
「じゃあお前等の正義ってのは、罪も無い奴らを殺すのか?それが正義だって言うのかよ」
もし、そうならば、【灰身】は本当にどうしようもないほど、悪党で。そんな奴らに、お姉さんは殺されたってことか?もしそうなら……
「……確かに、【灰身】の正義にそれが含まれていた、かもしれない。それはオレには否定できない」
「っざけんな!」
俺がこいつらを止める!!
86.燃(89と交換)
2008年6月4日 空中に放り出されたウルトンは何か黒いものに捕らえられた。その黒い物体は数回羽や尻尾でウルトンを優しく弾いてもてあそんだ後、比較的新しい柔らかい雪の上にウルトンを落としてさっさと飛び去っていった。
「あのクソトカゲめ……」
今日は本当に運がいい。ヤミハルの"ブラックワイバーン"が偶然にも落下するウルトンを見つけて助けるなんてことそうそう無い事だろう。それとも、もしかしたらカイドでは遥か上空の白の天辺から放り出されるのは日常茶飯事な事なのかもしれない。
「そんなことあってたまるか……くそっ」
ウルトンは自分が不甲斐なかった。自分の力の無さが不甲斐なく、それ以上に賢者の石に頼るという選択に走った自分が不甲斐なかった。
「何やってんだよ……くそっ、くそっくそっ!」
アトラという古い友人に再会してウルトンの頭は冷え始めていた。それはアトラに軽くあしらわれたからかもしれないし、ただ単純に雪に埋もれているからかもしれない。
今まで自暴自棄になって短慮を起こしてきた。何人もの人に迷惑をかけ、今カイドの内政が大変だと言う事を理解していながら、アトラにも迷惑をかけてしまった。ユツキが死んだからと言って、そんなわがままは許されることではない。
「俺は、何がしたいんだ?何をしたらいいんだ?」
お姉さんは……
「何してるんです……?」
"今度"は背後からではなく頭上から声が掛かった。
「見てわかんねーのか、雪に浸かってカイドを堪能してるんだよ」
「はぁ、まあいいです」
【猫かぶり】の少女はウルトンが城に突入している間、初めてのカイドを堪能するために軽く観光していたらしい。ある程度見て回った後、ウルトンを探していたそうだ。
「もうついてくんなって言ったろ。ここで魔法を習うなりなんなり勝手に楽しんでいけよ」
「……私は魔法が使えないので」
ウルトンはその言葉に少し違和感を覚えた。しかし考えても引っかかりの正体が分からなかったので放って置くことにした。
そんなことより、と【猫】は声のトーンを少し落として言った。
「2人のプレイヤーを見かけたんです」
唐突にこいつは何を言い出すのか、とウルトンは思ったが、次の言葉を聞いた瞬間【猫】が言わんとしている事がすぐに分かった。
「私、ユツキさんに教えられて【灰身】のメンバーの名前を少し覚えているんです」
納まったはずなのに。静まりかけていた感情がまたウルトンの中に燃え上がり始めていた。
「あの二人は確かに、【灰身】の一味でした」
「あのクソトカゲめ……」
今日は本当に運がいい。ヤミハルの"ブラックワイバーン"が偶然にも落下するウルトンを見つけて助けるなんてことそうそう無い事だろう。それとも、もしかしたらカイドでは遥か上空の白の天辺から放り出されるのは日常茶飯事な事なのかもしれない。
「そんなことあってたまるか……くそっ」
ウルトンは自分が不甲斐なかった。自分の力の無さが不甲斐なく、それ以上に賢者の石に頼るという選択に走った自分が不甲斐なかった。
「何やってんだよ……くそっ、くそっくそっ!」
アトラという古い友人に再会してウルトンの頭は冷え始めていた。それはアトラに軽くあしらわれたからかもしれないし、ただ単純に雪に埋もれているからかもしれない。
今まで自暴自棄になって短慮を起こしてきた。何人もの人に迷惑をかけ、今カイドの内政が大変だと言う事を理解していながら、アトラにも迷惑をかけてしまった。ユツキが死んだからと言って、そんなわがままは許されることではない。
「俺は、何がしたいんだ?何をしたらいいんだ?」
お姉さんは……
「何してるんです……?」
"今度"は背後からではなく頭上から声が掛かった。
「見てわかんねーのか、雪に浸かってカイドを堪能してるんだよ」
「はぁ、まあいいです」
【猫かぶり】の少女はウルトンが城に突入している間、初めてのカイドを堪能するために軽く観光していたらしい。ある程度見て回った後、ウルトンを探していたそうだ。
「もうついてくんなって言ったろ。ここで魔法を習うなりなんなり勝手に楽しんでいけよ」
「……私は魔法が使えないので」
ウルトンはその言葉に少し違和感を覚えた。しかし考えても引っかかりの正体が分からなかったので放って置くことにした。
そんなことより、と【猫】は声のトーンを少し落として言った。
「2人のプレイヤーを見かけたんです」
唐突にこいつは何を言い出すのか、とウルトンは思ったが、次の言葉を聞いた瞬間【猫】が言わんとしている事がすぐに分かった。
「私、ユツキさんに教えられて【灰身】のメンバーの名前を少し覚えているんです」
納まったはずなのに。静まりかけていた感情がまたウルトンの中に燃え上がり始めていた。
「あの二人は確かに、【灰身】の一味でした」
番外編:しりとり2
2008年6月2日ただの妄想
ユツキ「しりとりをしましょう!
スノウ「君はまた唐突だな
ミヤイニレ「やるからには手加減しませんよ?
ジャスティス「じゃあ順番決めるか
ミンティス「じゃんけんだね!
スノウ→ユツキ→ジャスティス→ミンティス→ミヤイニレ
スノ「では……しりとり
ユツ「普通ですねえ。りんご
スノ「君こそ普通じゃないか。
ジャス「まあマニアックなことを言うゲームじゃないからな。ゴマ。
ミン「マット!
ニレ「トリアゾラム。薬の名前です。
スノ「麦茶
ユツ「こういう場合は"や"でいいですか?
スノ「それで構わない
ユツ「八目鰻。おいしいですよね
ジャス「犠牲。
ミン「えーと、いのしし
ニレ「ジルコニウム。原子番号40のチタン族元素です。
スノ「……村雨
ユツ「目玉焼き!朝食の基本ですよね
ジャス「気合。
ミン「また"い"?ひどいなあ。
えーと犬は簡単すぎるから……
あっ!インディアン!
ジャス「おい
ユツ「残念ですけどミンティスは脱落ですね
ミン「えー!?
=ミンティス脱落=
ニレ「さてこの場合?ワタクシは"い"から始めるわけでしょうか?
ジャス「だな
ニレ「イオンビーム。惚れ惚れする響きですねえ?
スノ「本当にあるのかそれは。……虫時雨。
ニレ「情緒深いのが来ましたねえ?
スノ「……そうだな
虫時雨:多くの虫が鳴いていて、時雨の降るようであること。
スノ「では私はとろける美味しさレアチーズケーキで!
ジャス「ユツキさんは食べ物ばかりだな……
ミン「あっ本当だ!そんなことに気づくなんてジャスはすごいね!
ジャス「……キリン
ミン「あっ!ジャスも"ん"が着いたよ!一緒に見学だね!
ジャス「ああ
=ジャスティス脱落=
ニレ「さて3人になりましたねえ?さてさて、"キ"ですか?
スノ「……
ニレ「キュビスム。ある美術運動のことです。
さあリーダー様?"む"ですよ?"む"
スノ「くっ……
ユツ「ほらほらスノウ、どうしたんですか?
スノ「む……ムーミ……ン谷」
ニレ「ムーミン!あの丸い生物のことですねえ!
いやあ実にかわいらしいですねえ?
リーダー様ならもっとお堅い単語がでてくると思ったのですけどねえ?
いやあムーミンとは実にかわいらしいですねえ?
スノ「…………
ユツ「ニシンのパイ。魔女の宅急便に出てくるあれです。……あれ?顔が真っ赤ですよ、スノウ?
スノ「……なんでもない
ニレ「イですねえ?イオニウム。トリウムの同位体です。
スノ「さっきから……卑怯だぞ
ニレ「おや?何が卑怯なのですか?
まさかリーダー様ともあろうかたが、しりとりの基本戦法である
同一語尾攻めを否定するのですか?
それともまさか?もうギブアップですか?まさかそれはないですよねえ?
スノ「……!!
ユツ「スノウ、私にそんな視線を向けられても困りますよ。
ヒントをあげましょう。魚をバターで焼いたおいしいあれがありますよ!
スノ「む……ムニエル……?
ユツ「そうです!おいしいですよねえ……
えーと、ルですので……
−−−−
xxx「それでサディスティック二人組みに挟まれたスノウさんはその後どうなったんだ?
ジャス「ミヤイニレに"む"攻めを続けられて、
ユツキさんによってしりとりを延々続けさせられ。
赤くなったり青くなったり強がったり。
ものすごい表情の変化だったな、あれは。
xxx「……止めに入ってやれよ。
ジャス「ユツキさんが実に楽しそうだったからなあ。
止めに入るタイミングを失った。
xxx「まあ、平和で何よりだな。
ユツキ「しりとりをしましょう!
スノウ「君はまた唐突だな
ミヤイニレ「やるからには手加減しませんよ?
ジャスティス「じゃあ順番決めるか
ミンティス「じゃんけんだね!
スノウ→ユツキ→ジャスティス→ミンティス→ミヤイニレ
スノ「では……しりとり
ユツ「普通ですねえ。りんご
スノ「君こそ普通じゃないか。
ジャス「まあマニアックなことを言うゲームじゃないからな。ゴマ。
ミン「マット!
ニレ「トリアゾラム。薬の名前です。
スノ「麦茶
ユツ「こういう場合は"や"でいいですか?
スノ「それで構わない
ユツ「八目鰻。おいしいですよね
ジャス「犠牲。
ミン「えーと、いのしし
ニレ「ジルコニウム。原子番号40のチタン族元素です。
スノ「……村雨
ユツ「目玉焼き!朝食の基本ですよね
ジャス「気合。
ミン「また"い"?ひどいなあ。
えーと犬は簡単すぎるから……
あっ!インディアン!
ジャス「おい
ユツ「残念ですけどミンティスは脱落ですね
ミン「えー!?
=ミンティス脱落=
ニレ「さてこの場合?ワタクシは"い"から始めるわけでしょうか?
ジャス「だな
ニレ「イオンビーム。惚れ惚れする響きですねえ?
スノ「本当にあるのかそれは。……虫時雨。
ニレ「情緒深いのが来ましたねえ?
スノ「……そうだな
虫時雨:多くの虫が鳴いていて、時雨の降るようであること。
スノ「では私はとろける美味しさレアチーズケーキで!
ジャス「ユツキさんは食べ物ばかりだな……
ミン「あっ本当だ!そんなことに気づくなんてジャスはすごいね!
ジャス「……キリン
ミン「あっ!ジャスも"ん"が着いたよ!一緒に見学だね!
ジャス「ああ
=ジャスティス脱落=
ニレ「さて3人になりましたねえ?さてさて、"キ"ですか?
スノ「……
ニレ「キュビスム。ある美術運動のことです。
さあリーダー様?"む"ですよ?"む"
スノ「くっ……
ユツ「ほらほらスノウ、どうしたんですか?
スノ「む……ムーミ……ン谷」
ニレ「ムーミン!あの丸い生物のことですねえ!
いやあ実にかわいらしいですねえ?
リーダー様ならもっとお堅い単語がでてくると思ったのですけどねえ?
いやあムーミンとは実にかわいらしいですねえ?
スノ「…………
ユツ「ニシンのパイ。魔女の宅急便に出てくるあれです。……あれ?顔が真っ赤ですよ、スノウ?
スノ「……なんでもない
ニレ「イですねえ?イオニウム。トリウムの同位体です。
スノ「さっきから……卑怯だぞ
ニレ「おや?何が卑怯なのですか?
まさかリーダー様ともあろうかたが、しりとりの基本戦法である
同一語尾攻めを否定するのですか?
それともまさか?もうギブアップですか?まさかそれはないですよねえ?
スノ「……!!
ユツ「スノウ、私にそんな視線を向けられても困りますよ。
ヒントをあげましょう。魚をバターで焼いたおいしいあれがありますよ!
スノ「む……ムニエル……?
ユツ「そうです!おいしいですよねえ……
えーと、ルですので……
−−−−
xxx「それでサディスティック二人組みに挟まれたスノウさんはその後どうなったんだ?
ジャス「ミヤイニレに"む"攻めを続けられて、
ユツキさんによってしりとりを延々続けさせられ。
赤くなったり青くなったり強がったり。
ものすごい表情の変化だったな、あれは。
xxx「……止めに入ってやれよ。
ジャス「ユツキさんが実に楽しそうだったからなあ。
止めに入るタイミングを失った。
xxx「まあ、平和で何よりだな。
85.恨
2008年5月29日 結局ウルトンは死なずにカイドの東側にある『コダテ』にたどり着いた。道中何度も倒れたが、それでも修行はやり続けた。コダテの港へつくと、後からかかる「どこへ行くんです?」という【猫】の声は無視して、なけなしのお金でフォロッサ行きの船に乗った。そしてウルトンはすぐに寝息を立て始めた。
――
船員に「フォロッサにつきましたよ」と起こされ船を降りると"また"背後から声が掛かった。
「もしかして、フォロッサ城に行くんですか?」
驚いた。ウルトンは【猫かぶり】の少女はもうついて来れないと思っていた。どうみてもお金を持っていなさそうだったし、船には厳しい身分チェックがあった。ウルトンは以前もらったこの国の王であるアトラの直筆の手紙(と言っても内容は関係ない)があったので何とかなったが、【猫】にそんなコネがあるとは思えなかった。
「これ以上ついて来るんじゃねー、邪魔だ」
言ってはみたが、ついてきたとしてももう何も言うつもりは無かった。そのせいで【猫かぶり】の少女が死んだとしてもウルトンには関係が無いと思えた。
――
「フォロッサ城に何用か!」
城門につく頃には【猫】の気配は消えていた。空気が読めたのかもしれない。
門番が以前よりもピリピリしているのがウルトンにもわかった。しかも前は職務を放棄して開け放たれていた門が硬く閉ざされている。シムシとの戦争の影響だろう。
門番は2人、まずは鍵を手に入れる必要があるな、とウルトンは考えた。
「よぉ、ウルトン様がはるばるやってきてやった。門を開けろ」
自然に気軽に門番に近づいた。ウルトンの手にはいつぞやの挑戦状が握られており、それを門番に渡す。いぶかしげな顔で警戒していた門番だったが文章を読み終えると、ああ何だお前か、と呆れた顔になった。
「悪いが今は知っての通りシムシと交戦中で忙しいんだ。いくらアトラ王様の直々の招待があったしても相手をしてやる暇は無い」
「いやいやそこを何とか」
さらに近づく。警戒されている素振りは無い。鍵は、右の門番の腰の後ろに数本まとめてぶら下げてあった。
「*******」
「え? うわあああっ」
ウルトンは素早くはっきりと詠唱をした。指先から飛び出した小さな炎は門番の腰辺りの布を焼く。拘束を失い落ちてきた鍵をウルトンは起用にキャッチした。
「なんだどうした!?」
もう一人の門番が走り寄ってきた。火がついた門番はそれを消そうと雪の上を転げまわっている。
それらを無視してウルトンは門に近づいた。手に入れた鍵の中から適当に一本を選んで鍵穴に突っ込んで回す。ガチャリ、と鍵が開く音がした。今日はついてるな、とウルトンは思った。
「き、貴様何をしている!」
門が半分以上開いたときにやっと門番がウルトンが何をしているのか気付いた。
「***********!」
今度はさっきよりも少し強く詠唱をした。そして、門が燃え始めた。正確に言えば特殊な加工がされているであろう門は燃えはしないのだが、現れた渦巻く炎は門を完全に覆い尽くした。これで炎が消えるまで誰もこの城には入って来れない。
ウルトンは走り出した。炎の位置固定が限界に達すると、また新たに炎を呼び出し壁を作った。
「まあ誰かが火達磨になったとしても」
ウルトンは走りながら一人ごちた運が良い事に目的の場所にたどり着くまでに誰にも会わなかった。
「外は雪だ。死にはしないだろ」
王の間、不思議なことに見張りもいなかったが、ウルトンにとっては好都合だった。
扉を開ける。同時に来客を見越していたかのように偉そうな声が響いた。
「おーおー、お主か。いつぞやのゲームはクリアじゃのう?
城内がやけに騒がしいと思うとったら、久しく顔を見せない間に随分と成長したもんじゃ」
アトラは変わらず飄々として、ある種のオーラを放っていた。ウルトンはその様子に少し苛立ちを覚えたが、すぐに"用"を伝える事にした。
「軽口はやめろ。俺に力をよこせ」
「……性格も随分と傲慢になったようじゃのう?それは元からじゃったな」
動じずに少しおどけるようなアトラの物言いにウルトンの苛立ちは更に募っていく。
ユツキがいなくなってから今までに、中に中にと溜め込んでいた怒りがいつの間にか放出されていた。
「うるさい!!いいからさっさと俺に"賢者の石"をよこせ!!!」
賢者の石。術者の能力を極大までに上昇させることができる神秘の物質。その代わりにモンスターを呼び集めるという欠点もある危険な代物だ。
「おうおう、言いよるのう若造が。お主の今の発言、自分はカイドの反逆者だ、と自己申告しておるようなものじゃぞ?」
「それでも……構わない」
ウルトンは睨みつける形で、アトラは全てを見透かすかのように視線を交わしていた。
「……何があったのかは儂には分からん。分からんが、そんな"恨み"に沈んだ心でお主の力が引き出されるわけ無かろう。例え賢者の石を手に入れたところで同じ事、お主は弱いままじゃ」
「ふざけんじゃ……!」
「さっきのクリア宣言は撤回じゃの。今儂に捕まったからのう」
殴りかかろうとするウルトンの片足はいつの間にかロープ状のもので縛り付けられていた。それはアトラの手から一瞬で放たれた鞭だった。
「今回はおぬしの行動を不問にしよう。そうじゃな、頭が冷えたら……カイド中の図書館を回ってみると良いぞ。どこかに奴もおるじゃろうて」
そういってアトラは手を軽く上げ横に振った。その動きにあわせて鞭がしなり、鞭によって片足を拘束されているウルトンも宙に浮いた。そしてウルトンが抵抗する間も無く、窓の外に思いっきり放り出された。ちなみにココは城の最上階である。
「外は雪じゃ。まあ恐らく、死にはしないじゃろう、多分。……しかし、賢者の石とは……」
国の宝物、アトラの持ち物である賢者の石は既にカイドの元には無かった。それにより少なからずカイドの勢力は減少していた。また立て続けに起こるシムシとの交戦や外務などもあり、アトラは正直疲れていた。お忍びで町にでる暇すらない。
「王!!こんなところにおいでで。勝手に出歩かないで頂きたい。クサモチもどこへ行ったんだか全く……!」
そして今は会議中だったのだが、アトラは自室に逃げ込んでいた。クサモチといえばあまりの激務に城から蒸発していた。
「さてはて……これからどうなることかの?」
カイドの王アトラは、少し自嘲気味に笑った。
――
船員に「フォロッサにつきましたよ」と起こされ船を降りると"また"背後から声が掛かった。
「もしかして、フォロッサ城に行くんですか?」
驚いた。ウルトンは【猫かぶり】の少女はもうついて来れないと思っていた。どうみてもお金を持っていなさそうだったし、船には厳しい身分チェックがあった。ウルトンは以前もらったこの国の王であるアトラの直筆の手紙(と言っても内容は関係ない)があったので何とかなったが、【猫】にそんなコネがあるとは思えなかった。
「これ以上ついて来るんじゃねー、邪魔だ」
言ってはみたが、ついてきたとしてももう何も言うつもりは無かった。そのせいで【猫かぶり】の少女が死んだとしてもウルトンには関係が無いと思えた。
――
「フォロッサ城に何用か!」
城門につく頃には【猫】の気配は消えていた。空気が読めたのかもしれない。
門番が以前よりもピリピリしているのがウルトンにもわかった。しかも前は職務を放棄して開け放たれていた門が硬く閉ざされている。シムシとの戦争の影響だろう。
門番は2人、まずは鍵を手に入れる必要があるな、とウルトンは考えた。
「よぉ、ウルトン様がはるばるやってきてやった。門を開けろ」
自然に気軽に門番に近づいた。ウルトンの手にはいつぞやの挑戦状が握られており、それを門番に渡す。いぶかしげな顔で警戒していた門番だったが文章を読み終えると、ああ何だお前か、と呆れた顔になった。
「悪いが今は知っての通りシムシと交戦中で忙しいんだ。いくらアトラ王様の直々の招待があったしても相手をしてやる暇は無い」
「いやいやそこを何とか」
さらに近づく。警戒されている素振りは無い。鍵は、右の門番の腰の後ろに数本まとめてぶら下げてあった。
「*******」
「え? うわあああっ」
ウルトンは素早くはっきりと詠唱をした。指先から飛び出した小さな炎は門番の腰辺りの布を焼く。拘束を失い落ちてきた鍵をウルトンは起用にキャッチした。
「なんだどうした!?」
もう一人の門番が走り寄ってきた。火がついた門番はそれを消そうと雪の上を転げまわっている。
それらを無視してウルトンは門に近づいた。手に入れた鍵の中から適当に一本を選んで鍵穴に突っ込んで回す。ガチャリ、と鍵が開く音がした。今日はついてるな、とウルトンは思った。
「き、貴様何をしている!」
門が半分以上開いたときにやっと門番がウルトンが何をしているのか気付いた。
「***********!」
今度はさっきよりも少し強く詠唱をした。そして、門が燃え始めた。正確に言えば特殊な加工がされているであろう門は燃えはしないのだが、現れた渦巻く炎は門を完全に覆い尽くした。これで炎が消えるまで誰もこの城には入って来れない。
ウルトンは走り出した。炎の位置固定が限界に達すると、また新たに炎を呼び出し壁を作った。
「まあ誰かが火達磨になったとしても」
ウルトンは走りながら一人ごちた運が良い事に目的の場所にたどり着くまでに誰にも会わなかった。
「外は雪だ。死にはしないだろ」
王の間、不思議なことに見張りもいなかったが、ウルトンにとっては好都合だった。
扉を開ける。同時に来客を見越していたかのように偉そうな声が響いた。
「おーおー、お主か。いつぞやのゲームはクリアじゃのう?
城内がやけに騒がしいと思うとったら、久しく顔を見せない間に随分と成長したもんじゃ」
アトラは変わらず飄々として、ある種のオーラを放っていた。ウルトンはその様子に少し苛立ちを覚えたが、すぐに"用"を伝える事にした。
「軽口はやめろ。俺に力をよこせ」
「……性格も随分と傲慢になったようじゃのう?それは元からじゃったな」
動じずに少しおどけるようなアトラの物言いにウルトンの苛立ちは更に募っていく。
ユツキがいなくなってから今までに、中に中にと溜め込んでいた怒りがいつの間にか放出されていた。
「うるさい!!いいからさっさと俺に"賢者の石"をよこせ!!!」
賢者の石。術者の能力を極大までに上昇させることができる神秘の物質。その代わりにモンスターを呼び集めるという欠点もある危険な代物だ。
「おうおう、言いよるのう若造が。お主の今の発言、自分はカイドの反逆者だ、と自己申告しておるようなものじゃぞ?」
「それでも……構わない」
ウルトンは睨みつける形で、アトラは全てを見透かすかのように視線を交わしていた。
「……何があったのかは儂には分からん。分からんが、そんな"恨み"に沈んだ心でお主の力が引き出されるわけ無かろう。例え賢者の石を手に入れたところで同じ事、お主は弱いままじゃ」
「ふざけんじゃ……!」
「さっきのクリア宣言は撤回じゃの。今儂に捕まったからのう」
殴りかかろうとするウルトンの片足はいつの間にかロープ状のもので縛り付けられていた。それはアトラの手から一瞬で放たれた鞭だった。
「今回はおぬしの行動を不問にしよう。そうじゃな、頭が冷えたら……カイド中の図書館を回ってみると良いぞ。どこかに奴もおるじゃろうて」
そういってアトラは手を軽く上げ横に振った。その動きにあわせて鞭がしなり、鞭によって片足を拘束されているウルトンも宙に浮いた。そしてウルトンが抵抗する間も無く、窓の外に思いっきり放り出された。ちなみにココは城の最上階である。
「外は雪じゃ。まあ恐らく、死にはしないじゃろう、多分。……しかし、賢者の石とは……」
国の宝物、アトラの持ち物である賢者の石は既にカイドの元には無かった。それにより少なからずカイドの勢力は減少していた。また立て続けに起こるシムシとの交戦や外務などもあり、アトラは正直疲れていた。お忍びで町にでる暇すらない。
「王!!こんなところにおいでで。勝手に出歩かないで頂きたい。クサモチもどこへ行ったんだか全く……!」
そして今は会議中だったのだが、アトラは自室に逃げ込んでいた。クサモチといえばあまりの激務に城から蒸発していた。
「さてはて……これからどうなることかの?」
カイドの王アトラは、少し自嘲気味に笑った。
84.視
2008年5月29日 普通のプレイヤーは衆からシムシに向かう場合は中立国を経由する。衆とシムシの国境であるアルル大渓谷は険しく、しかも隣国同士の小競り合いが続いているため、この谷を移動のために利用するのはよほど急ぎの用があるか無鉄砲なプレイヤーだけだった。ウルトンはその両方で、あまり知られていない小道を抜けていた。
(そういやあの時もアルル渓谷を横断したな)
考えて、ウルトンの目に暗闇が増す。ユツキのことを思い出すと、どうしようもなく心がぐちゃぐちゃになる。悲しみなのか怒りなのかはウルトンにはわからなかった。ユツキの命を奪った世界がただ憎かった。
「いつまで付いて来るつもりだ」
振り向かずに背後に対して言葉を投げる。反応して岩陰から姿を現したのは【猫かぶり】の少女だった。【猫かぶり】はどういうわけか遺跡を出た後ずっとウルトンをつけて来ていた。
少女はウルトンの質問に質問で返答した。
「ウルトンさんも、いつまで続けるつもりです……?それ」
ウルトンは【炎魔法】を歩きながら発動し続けていた。その魔法は敵を流動する炎で包み身動きをとらせなくし、魔力の高いものが使えばそのまま相手を消し炭にもできる。
本来ならそういう使い方をするはずの炎が、今はウルトンの体を取り巻いていた。『体感しながら学ぶのが上達の早道』という"師匠"の教えを強引に実行した結果だった。炎の中心で本を開き、ぶつぶつ呟いているその姿は異様だった。
炎により体が炙られ、炎の『イメージ』を直接体から覚える。流動させる事により体が感じる熱の移動がそのまま炎の『動き』として記憶され、さらに自身が前進しているため魔法も前に移動させ続けなくてはならないので『コントロール』も鍛えられる。効力切れから再詠唱を何度も繰り返す事により『持続』方法を学び、持久力と詠唱力が上昇する。
イメージの個別化・固定化という点から見れば、確かにこの方法は理論的に最も効率が良いと言えた。しかし身体や脳へかかる負担は拷問に近いものがあった。皮膚のところどころがただれ、体内が熱を持ち続け、思考も定かではなくなる。
「……いつか死んじゃうんですよ」
少女の呟く声が聞こえたが、ウルトンは聞こえなかった振りをした。ウルトンの目は何も視ていないようだった。
(そういやあの時もアルル渓谷を横断したな)
考えて、ウルトンの目に暗闇が増す。ユツキのことを思い出すと、どうしようもなく心がぐちゃぐちゃになる。悲しみなのか怒りなのかはウルトンにはわからなかった。ユツキの命を奪った世界がただ憎かった。
「いつまで付いて来るつもりだ」
振り向かずに背後に対して言葉を投げる。反応して岩陰から姿を現したのは【猫かぶり】の少女だった。【猫かぶり】はどういうわけか遺跡を出た後ずっとウルトンをつけて来ていた。
少女はウルトンの質問に質問で返答した。
「ウルトンさんも、いつまで続けるつもりです……?それ」
ウルトンは【炎魔法】を歩きながら発動し続けていた。その魔法は敵を流動する炎で包み身動きをとらせなくし、魔力の高いものが使えばそのまま相手を消し炭にもできる。
本来ならそういう使い方をするはずの炎が、今はウルトンの体を取り巻いていた。『体感しながら学ぶのが上達の早道』という"師匠"の教えを強引に実行した結果だった。炎の中心で本を開き、ぶつぶつ呟いているその姿は異様だった。
炎により体が炙られ、炎の『イメージ』を直接体から覚える。流動させる事により体が感じる熱の移動がそのまま炎の『動き』として記憶され、さらに自身が前進しているため魔法も前に移動させ続けなくてはならないので『コントロール』も鍛えられる。効力切れから再詠唱を何度も繰り返す事により『持続』方法を学び、持久力と詠唱力が上昇する。
イメージの個別化・固定化という点から見れば、確かにこの方法は理論的に最も効率が良いと言えた。しかし身体や脳へかかる負担は拷問に近いものがあった。皮膚のところどころがただれ、体内が熱を持ち続け、思考も定かではなくなる。
「……いつか死んじゃうんですよ」
少女の呟く声が聞こえたが、ウルトンは聞こえなかった振りをした。ウルトンの目は何も視ていないようだった。
番外編:本部にて2
2008年5月29日 時は少しさかのぼり、太陽がちょっと傾いた頃の、ミンティスのお話。
−−−
「ジャスまだ来ないなあ」
あれから本部でしばらくまってもジャス(ジャスティスの愛称、あたしたちはジャスとミンって呼び合ってる)は来なかった。【目目連】がここにあったってことはここにいろ、って意味だと思うんだけど……
−1時間後 まだジャスは来ない。
暇だしだいぶ汚くなってるから、部屋の掃除でもしようかな?と思ったけど止めておいた。この部屋には思い出の品がたくさん詰まっている。転がっているだけの一見するとただのガラクタでも、"そこに転がっている"ことが思い出になる。多分、皆が皆そんなことを考えているから"本部"であるこの部屋は汚いままなんだと思う。
「そろそろ電気でもつけようかな……ん?」
ドアのほうから足音が聞こえた。反射的に書斎机の裏に身を隠す。荒っぽい足音は複数、ジャスの足音は無い。……侵入者?何のために?
足音は廊下を通りすぎ、本部の中に一つしかない部屋(つまりあたしが今いる部屋)にたどり着く。
「ちっ誰もいねえのかよ」
恐らく集団の先頭にいる男が声を発した。少し聞き覚えのある声だった。確か、少し前に【灰身】に集団で入ってきた男だ。あたしたちは偶然そのとき本部にいたから覚えている。
「あの野郎、殺してやる」
あの野郎、ってのは多分ジャスのことだ。何をやったのかわからないけど、ジャスならきっと人に憎まれることぐらいいくつもやってると思う。
彼らが【灰身】メンバーだとしても、穏やかじゃない。言ってることからしても"本部に挨拶に来ました!"というわけでは、全然無いんだろう。
自慢じゃないけど、あたしは弱い。一人じゃ何も出来ないできそこないだ。ジャスからも一人のときは慎重に動くように、っていつもくどくど言われている。だからあたしは机の裏にずっと隠れてやりすごすつもりだった。
つもりだった。彼らが室内の"ガラクタ"を壊し始めるまでは。
「やめて!」
気付いたら叫びながら飛び出していた。せいぜい10人ぐらいだと思っていたのに、集団はゆうに20人を超えていた。
部屋に人がいることに気付いた彼らは廊下にいた人達も集めて招き入れた。少しだけ広い部屋が人で一杯になる。
「この部屋の物を壊すのはやめて。できればここからでていって」
怖くない。どちらかといえば衆の砂漠のほうが怖かった。本部だから皆が見守ってくれているような気になるからかも。
「ミンティスさんよぉ、俺たちはイライラしてんの、だからあそんな舐めた口聞いてるとお」
彼はそう良いながらそばにあった壷を蹴り壊した。
「ぶっ殺……!?」
止めた。これ以上この"ガラクタ"を壊させない。
【念止力】、範囲-【視界全域】、対象-【プレイヤー:22人】 全て、静止。
「……ッ!!」
【念止力】は視界に入ってる対象の動きを全て、厳密に止める。
しかし、これに殺傷能力はない。呼吸や心臓の動きなど体内部の動きは止めることが出来ない。効果が及ぶのは"見える部分"だけなのだ。
でもそれをこの人たちは知らない。知らないからぞろぞろでてきて、自分たちから動きをあたしに封じられて、固まっている人の後ろに隠れていれば無事なのに、でも一部分でも見えたらそこの動きは止められるんだけど、でもだから、えーとだから?なんだっけ、あれぐるんぐるんしてきた、ああダメ、よく前が見えない止められないぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
「ぐ……」
だめ、ねちゃだめ。目を開けなきゃ、あれなんで目の前に床があるの?顔、上げなきゃ。止めなきゃ。彼らの笑い声が微かに聞こえてくる。ああそうかぁ、あたしじゃやっぱりダメみたい。
「ジャス……」
ゴスッ
突然目の前に血まみれの男の頭が転がった。すぐに昇天の光があがり消え去る。部屋の空気が変わったのだけは微かに分かった。
「…ら・・・レ…【眠り……てんだ!?」
聞き覚えのある声。懇親の力で顔を上げて、【念止力】。意識が飛びそう、数秒でいいから。もう少し、もう少し頑張らなくちゃ……
「オレの正義が、オマエを裁く!!」
ああ、もう安心。おやすみ、ジャス……
―――日が沈み始めたぐらい――
広い背中。暖かくて懐かしい、ちょっと離れてただけなのにな。
「おら、起きたんなら自分で歩け」
「……ばれた?」
「たりめーだ」
そういいながらもジャスは寝起きのあたしを無理やり落とそうとはしない。
あたしは知ってるよ。あなたの優しさ。長くペアを組んでてやっと感じ取れるぐらいでわかりにくいけどさっ。
頭がはっきりしてくるにうちに意識が飛ぶ前の記憶もはっきりしてきた。
『オマエら、オレの【眠り姫】に、何してんだ!?』
「うふふっ」
「んだよ気持ち悪いな」
「ありがとっ!」
ジャスの優しさ、あたしはちゃんと受け止めてるよ。
「おら、行くぞ」
投げ落とされたけどね!
−−−
「ジャスまだ来ないなあ」
あれから本部でしばらくまってもジャス(ジャスティスの愛称、あたしたちはジャスとミンって呼び合ってる)は来なかった。【目目連】がここにあったってことはここにいろ、って意味だと思うんだけど……
−1時間後 まだジャスは来ない。
暇だしだいぶ汚くなってるから、部屋の掃除でもしようかな?と思ったけど止めておいた。この部屋には思い出の品がたくさん詰まっている。転がっているだけの一見するとただのガラクタでも、"そこに転がっている"ことが思い出になる。多分、皆が皆そんなことを考えているから"本部"であるこの部屋は汚いままなんだと思う。
「そろそろ電気でもつけようかな……ん?」
ドアのほうから足音が聞こえた。反射的に書斎机の裏に身を隠す。荒っぽい足音は複数、ジャスの足音は無い。……侵入者?何のために?
足音は廊下を通りすぎ、本部の中に一つしかない部屋(つまりあたしが今いる部屋)にたどり着く。
「ちっ誰もいねえのかよ」
恐らく集団の先頭にいる男が声を発した。少し聞き覚えのある声だった。確か、少し前に【灰身】に集団で入ってきた男だ。あたしたちは偶然そのとき本部にいたから覚えている。
「あの野郎、殺してやる」
あの野郎、ってのは多分ジャスのことだ。何をやったのかわからないけど、ジャスならきっと人に憎まれることぐらいいくつもやってると思う。
彼らが【灰身】メンバーだとしても、穏やかじゃない。言ってることからしても"本部に挨拶に来ました!"というわけでは、全然無いんだろう。
自慢じゃないけど、あたしは弱い。一人じゃ何も出来ないできそこないだ。ジャスからも一人のときは慎重に動くように、っていつもくどくど言われている。だからあたしは机の裏にずっと隠れてやりすごすつもりだった。
つもりだった。彼らが室内の"ガラクタ"を壊し始めるまでは。
「やめて!」
気付いたら叫びながら飛び出していた。せいぜい10人ぐらいだと思っていたのに、集団はゆうに20人を超えていた。
部屋に人がいることに気付いた彼らは廊下にいた人達も集めて招き入れた。少しだけ広い部屋が人で一杯になる。
「この部屋の物を壊すのはやめて。できればここからでていって」
怖くない。どちらかといえば衆の砂漠のほうが怖かった。本部だから皆が見守ってくれているような気になるからかも。
「ミンティスさんよぉ、俺たちはイライラしてんの、だからあそんな舐めた口聞いてるとお」
彼はそう良いながらそばにあった壷を蹴り壊した。
「ぶっ殺……!?」
止めた。これ以上この"ガラクタ"を壊させない。
【念止力】、範囲-【視界全域】、対象-【プレイヤー:22人】 全て、静止。
「……ッ!!」
【念止力】は視界に入ってる対象の動きを全て、厳密に止める。
しかし、これに殺傷能力はない。呼吸や心臓の動きなど体内部の動きは止めることが出来ない。効果が及ぶのは"見える部分"だけなのだ。
でもそれをこの人たちは知らない。知らないからぞろぞろでてきて、自分たちから動きをあたしに封じられて、固まっている人の後ろに隠れていれば無事なのに、でも一部分でも見えたらそこの動きは止められるんだけど、でもだから、えーとだから?なんだっけ、あれぐるんぐるんしてきた、ああダメ、よく前が見えない止められないぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
「ぐ……」
だめ、ねちゃだめ。目を開けなきゃ、あれなんで目の前に床があるの?顔、上げなきゃ。止めなきゃ。彼らの笑い声が微かに聞こえてくる。ああそうかぁ、あたしじゃやっぱりダメみたい。
「ジャス……」
ゴスッ
突然目の前に血まみれの男の頭が転がった。すぐに昇天の光があがり消え去る。部屋の空気が変わったのだけは微かに分かった。
「…ら・・・レ…【眠り……てんだ!?」
聞き覚えのある声。懇親の力で顔を上げて、【念止力】。意識が飛びそう、数秒でいいから。もう少し、もう少し頑張らなくちゃ……
「オレの正義が、オマエを裁く!!」
ああ、もう安心。おやすみ、ジャス……
―――日が沈み始めたぐらい――
広い背中。暖かくて懐かしい、ちょっと離れてただけなのにな。
「おら、起きたんなら自分で歩け」
「……ばれた?」
「たりめーだ」
そういいながらもジャスは寝起きのあたしを無理やり落とそうとはしない。
あたしは知ってるよ。あなたの優しさ。長くペアを組んでてやっと感じ取れるぐらいでわかりにくいけどさっ。
頭がはっきりしてくるにうちに意識が飛ぶ前の記憶もはっきりしてきた。
『オマエら、オレの【眠り姫】に、何してんだ!?』
「うふふっ」
「んだよ気持ち悪いな」
「ありがとっ!」
ジャスの優しさ、あたしはちゃんと受け止めてるよ。
「おら、行くぞ」
投げ落とされたけどね!
83.周
2008年5月22日 急にミンティスが良くわからない言葉を叫んだかと思うと、世界が暗転した。暗闇が明けるとそこは太陽が照りつける衆ではなく、適度な気温の薄暗い乱雑な部屋の中だった。
「あれ?ジャスどこ?……いないなあ」
「どうなったんですか?ここは、衆ではないですよね?」
「ん?あっえーと……簡単に言うと、うーん。
中立国の『プロ』だよ!」
恐ろしい。元々リペノたちがいた場所から『プロ』まではかなり離れていた。それだけの空間移動をするには相当の魔力か、レアアイテムが必要だ。
【念止力】といい、この少女は一体何者なのだろうか。
「あなたに会わせたい人がいたんだけど今いないみたい。
もし、忙しくなければ夕方また会える?」
特にそこまで急いでいるわけではなかったのでリペノはその申し出を受け入れ、日が陰った頃にプロの中央公園で落ち合うことになった。
ミンティスを部屋に残して質素なつくりの家(というより小屋)を出る。プロは広いので適当に歩いて大通りに出てまずは現在位置を確認する。その後は夕方まで、情報屋をぶらぶらと歩いて回って時間を潰した。
「シムシカイド戦争嵐の前の静けさ?……か」
それは購入した情報誌の一面の文字だった。シムシとカイドの戦争は一時沈静化されているらしい。だが一触即発の状況は変わず、いつまた勃発するか分からない、とのことだった。
「はぁ……どこも、荒れてるなあ」
−−−
−夕方
リペノは日の沈む少し前から中央公園のベンチで休んでいた。グラウンドは何やら良くわからない球技をするプレイヤーや、良くわからない屋台などで賑わっていた。
ここはこんなにも平和なのに。恐らくシムシも衆もカイドも生活の一片だけを覗けば平和にしか見えないのだろう。表面に現れないところで荒廃は広がり、気付いたときにはもう取り返しはつかない。【未来視】を持つ衆の長の周でさえも内乱の勃発を止める事は出来なかった。
未然に防ぐことが出来ないなら、起きてしまったことを最小限に抑える努力が必要だ。しかし、完全に無かった事にはできない。それこそ、【奇跡】を使わない限り不可能な話だろう。
リペノがしばらく思考に浸っているとミンティスがやってきた。大きく手を振っているので小さく手を振り返す。隣には赤いマントを羽織った金髪の男がいた。会わせたいプレイヤーとはこの人だろうか。
「話はミンから聞いた。コイツを助けてくれた事に対し、オレの正義を持って、礼を言う。サンキューな」
プレイヤーネーム:ジャスティスは、釣り目なのだがミンティスと同じく大きな目をしているので人相を悪く感じさせない顔立ちだった。
「ほんとありがとうね!」
「……オマエは向こうでもう少し反省してろ!」
気軽な態度のミンティスにジャスティスは吼えた。ちぇっという顔でミンティスは少し離れた。
ミンティスが離れたのを確認すると、ジャスティスはふぅ、とため息を一つつき、
「オレが目を離したのがいけなかった。本当に恩に着る」
と真摯に謝った。
「はぁ」
リペノは夫婦漫才に少し置いてきぼりになっていた。
−
3人で少し雑談をしたあと、
「リペノはこれからどうするの?」
という話になった。
特に行きたい場所があるわけではないが、ウルトンは恐らくカイドに向かうだろう。もう一度会う必要があるからには、じっとしているよりも一国で偶然遭遇するというありえない確率に賭ける事にした。
「このままカイドに向かおうかと思います」
リペノが答えると
「カイドか……いいな、掃除は粗方終わったし、雪国というものを一度見てみたいからな」
ジャスティスが何故か同意し
「え、あの?」
戸惑っている間に
「よし!あたしたちもついていこう!」
ミンティスが決定した。
旅は道連れ世は情けである。
「あれ?ジャスどこ?……いないなあ」
「どうなったんですか?ここは、衆ではないですよね?」
「ん?あっえーと……簡単に言うと、うーん。
中立国の『プロ』だよ!」
恐ろしい。元々リペノたちがいた場所から『プロ』まではかなり離れていた。それだけの空間移動をするには相当の魔力か、レアアイテムが必要だ。
【念止力】といい、この少女は一体何者なのだろうか。
「あなたに会わせたい人がいたんだけど今いないみたい。
もし、忙しくなければ夕方また会える?」
特にそこまで急いでいるわけではなかったのでリペノはその申し出を受け入れ、日が陰った頃にプロの中央公園で落ち合うことになった。
ミンティスを部屋に残して質素なつくりの家(というより小屋)を出る。プロは広いので適当に歩いて大通りに出てまずは現在位置を確認する。その後は夕方まで、情報屋をぶらぶらと歩いて回って時間を潰した。
「シムシカイド戦争嵐の前の静けさ?……か」
それは購入した情報誌の一面の文字だった。シムシとカイドの戦争は一時沈静化されているらしい。だが一触即発の状況は変わず、いつまた勃発するか分からない、とのことだった。
「はぁ……どこも、荒れてるなあ」
−−−
−夕方
リペノは日の沈む少し前から中央公園のベンチで休んでいた。グラウンドは何やら良くわからない球技をするプレイヤーや、良くわからない屋台などで賑わっていた。
ここはこんなにも平和なのに。恐らくシムシも衆もカイドも生活の一片だけを覗けば平和にしか見えないのだろう。表面に現れないところで荒廃は広がり、気付いたときにはもう取り返しはつかない。【未来視】を持つ衆の長の周でさえも内乱の勃発を止める事は出来なかった。
未然に防ぐことが出来ないなら、起きてしまったことを最小限に抑える努力が必要だ。しかし、完全に無かった事にはできない。それこそ、【奇跡】を使わない限り不可能な話だろう。
リペノがしばらく思考に浸っているとミンティスがやってきた。大きく手を振っているので小さく手を振り返す。隣には赤いマントを羽織った金髪の男がいた。会わせたいプレイヤーとはこの人だろうか。
「話はミンから聞いた。コイツを助けてくれた事に対し、オレの正義を持って、礼を言う。サンキューな」
プレイヤーネーム:ジャスティスは、釣り目なのだがミンティスと同じく大きな目をしているので人相を悪く感じさせない顔立ちだった。
「ほんとありがとうね!」
「……オマエは向こうでもう少し反省してろ!」
気軽な態度のミンティスにジャスティスは吼えた。ちぇっという顔でミンティスは少し離れた。
ミンティスが離れたのを確認すると、ジャスティスはふぅ、とため息を一つつき、
「オレが目を離したのがいけなかった。本当に恩に着る」
と真摯に謝った。
「はぁ」
リペノは夫婦漫才に少し置いてきぼりになっていた。
−
3人で少し雑談をしたあと、
「リペノはこれからどうするの?」
という話になった。
特に行きたい場所があるわけではないが、ウルトンは恐らくカイドに向かうだろう。もう一度会う必要があるからには、じっとしているよりも一国で偶然遭遇するというありえない確率に賭ける事にした。
「このままカイドに向かおうかと思います」
リペノが答えると
「カイドか……いいな、掃除は粗方終わったし、雪国というものを一度見てみたいからな」
ジャスティスが何故か同意し
「え、あの?」
戸惑っている間に
「よし!あたしたちもついていこう!」
ミンティスが決定した。
旅は道連れ世は情けである。
82.巻
2008年5月21日「うーん、どうしよう」
結局リペノはビストに入らずに迂回して中立国に向かっていた。迂回するよりも他なかったと言うべきか。
何故ならば拾ってきた少女が起きなかったからだ。大声で呼んでみたり、ぐらぐら揺らしてみたりしたのだが、何をやっても起きなかった。
意識の無い少女など連れていたら、人攫いか何かと間違えられてしまうかもしれない。それを懸念して町には入らなかった。
「足は手に入れたからいいんだけど……」
追い剥ぎから馬を奪ったおかげで馬車を借りる必要は無くなった。しかしやはり、当面の問題は少女が起きないことだった。
少女、といっても身長は160cmほどある。一方リペノは150cmだ。鍛えているとはいえ、体格差がありすぎて抱えながら馬を操るのには多少無理があった。
「ん、ん〜」
しばらくリペノが緩く馬を歩かせていると少女がモゾモゾと動き出した。リペノは馬を止めて、少女と共に馬を降りた。
目を開けた少女の第一声は
「あ、おはよう!」
だった。
しばらくぽかんと口を開きながら頭にクエッションマークが大量に出ている顔で周囲を見つめた後、やっと思い出したかのように両手のひらをポン!と合わせた。
「ごめんなさい、ちょっと寝ぼけてて。えーっと、ありがとう!助けてくれて!」
「いや、僕が勝手に首を突っ込んだことですから、それにあなたにも助けてもらいましたし……」
「ジャスに面倒ごとに巻き込まれないように慎重に動け、って言われてたんだけど、あたしドジだからさ」
ドジだから、とは言ってはいるが、少女に気にした様子は全く無かった。
「えーっと、いろいろ聞きたいことはあるんですけど……さっきの、追い剥ぎの動きが止まったのは一体何だったんですか?」
少女が追い剥ぎたちの動きを止めたことがリペノにはずっと気になっていた。あの時少女は何のモーションもせず、ただ追い剥ぎを睨んでいるだけだった。
「あれ?あれはね、【念止力】ってスキルだよ。【念動力】と正反対のスキルで、視野が及ぶ範囲のものなら何でも!動きを止めれちゃうのさ!」
それは、すごい。敵を動かなくできれば、攻撃なり捕縛なり何でも出来てしまう。
「まあ使ってる間は動けなくなるから、普段はジャスと一緒のときしか使えないんだけどね!」
しかし少女は致命的な弱点を楽しそうに語った。
「それに眠くなっちゃうから……それでジャスから【寝太郎】とか呼ばれるし……」
どうやら少女が眠りこけていたのは、スキル使用による反動だったらしい。話によると捕縛物体が多く、捕縛時間が長くなるほどすぐに眠気が襲ってきてしまうそうだ。
「あっ、自己紹介がまだだったね!ミンティスです。よろしくっ!」
「あ、リペノです。よろしくお願いします」
リペノはネーム確認をとっくにしていたので名前は知っていたのだが、相手のペースに流されてしまった。
ここらでやっと、お互いの状況を説明することになった。
リペノは自分は中立国に向かっている事を伝え、なんとミンティスという少女も中立国に向かっていることを知った。
ビストは越えた?という質問に、ついさっきとリペノが答えると、ミンティスは、なら……と言い
「そろそろ使えるかな……【目目連】!」
範囲にリペノを巻き込んだまま、黒い目玉は空間を飲み込んだ。
結局リペノはビストに入らずに迂回して中立国に向かっていた。迂回するよりも他なかったと言うべきか。
何故ならば拾ってきた少女が起きなかったからだ。大声で呼んでみたり、ぐらぐら揺らしてみたりしたのだが、何をやっても起きなかった。
意識の無い少女など連れていたら、人攫いか何かと間違えられてしまうかもしれない。それを懸念して町には入らなかった。
「足は手に入れたからいいんだけど……」
追い剥ぎから馬を奪ったおかげで馬車を借りる必要は無くなった。しかしやはり、当面の問題は少女が起きないことだった。
少女、といっても身長は160cmほどある。一方リペノは150cmだ。鍛えているとはいえ、体格差がありすぎて抱えながら馬を操るのには多少無理があった。
「ん、ん〜」
しばらくリペノが緩く馬を歩かせていると少女がモゾモゾと動き出した。リペノは馬を止めて、少女と共に馬を降りた。
目を開けた少女の第一声は
「あ、おはよう!」
だった。
しばらくぽかんと口を開きながら頭にクエッションマークが大量に出ている顔で周囲を見つめた後、やっと思い出したかのように両手のひらをポン!と合わせた。
「ごめんなさい、ちょっと寝ぼけてて。えーっと、ありがとう!助けてくれて!」
「いや、僕が勝手に首を突っ込んだことですから、それにあなたにも助けてもらいましたし……」
「ジャスに面倒ごとに巻き込まれないように慎重に動け、って言われてたんだけど、あたしドジだからさ」
ドジだから、とは言ってはいるが、少女に気にした様子は全く無かった。
「えーっと、いろいろ聞きたいことはあるんですけど……さっきの、追い剥ぎの動きが止まったのは一体何だったんですか?」
少女が追い剥ぎたちの動きを止めたことがリペノにはずっと気になっていた。あの時少女は何のモーションもせず、ただ追い剥ぎを睨んでいるだけだった。
「あれ?あれはね、【念止力】ってスキルだよ。【念動力】と正反対のスキルで、視野が及ぶ範囲のものなら何でも!動きを止めれちゃうのさ!」
それは、すごい。敵を動かなくできれば、攻撃なり捕縛なり何でも出来てしまう。
「まあ使ってる間は動けなくなるから、普段はジャスと一緒のときしか使えないんだけどね!」
しかし少女は致命的な弱点を楽しそうに語った。
「それに眠くなっちゃうから……それでジャスから【寝太郎】とか呼ばれるし……」
どうやら少女が眠りこけていたのは、スキル使用による反動だったらしい。話によると捕縛物体が多く、捕縛時間が長くなるほどすぐに眠気が襲ってきてしまうそうだ。
「あっ、自己紹介がまだだったね!ミンティスです。よろしくっ!」
「あ、リペノです。よろしくお願いします」
リペノはネーム確認をとっくにしていたので名前は知っていたのだが、相手のペースに流されてしまった。
ここらでやっと、お互いの状況を説明することになった。
リペノは自分は中立国に向かっている事を伝え、なんとミンティスという少女も中立国に向かっていることを知った。
ビストは越えた?という質問に、ついさっきとリペノが答えると、ミンティスは、なら……と言い
「そろそろ使えるかな……【目目連】!」
範囲にリペノを巻き込んだまま、黒い目玉は空間を飲み込んだ。