114.爆(128から

2009年4月30日 日常
「一撃でいいんだな!?」
 
 ジャスティスの呼び掛けに反応するものはもちろんいない。
 ジャスティスは考える。一撃ならば方法が無いわけではない。確認、ヤミハルの立ち位置、岩壁は遠くない、岩の天井まで約5m、ヤツはオレ達の能力を把握していない。これならば、いける。
 アイコンタクトでミンティスとリペノに呼びかける。ジャスティスと長くコンビを組んでいるミンティスはもちろん、集団戦闘にも慣れているリペノにもそのアイコンタクトの”集まれ”という意味は正しく伝わった。
 ジャスティスは今得た情報、それにより組み立てた作戦を隣まで来た二人に手短に伝える。
 
「……はい、わかりました。全力でやります」
「でも……」
 
 リペノは一切の迷い無く頷いた。しかしミンティスには少しの戸惑いがあった。リスクが大きすぎたからだ。
 この作戦では、自分はまだしも、二人は無事ではすまないかも知れない、その思いがミンティスの決断を鈍らせた。
 
「【黒翼】相手では戦いを長引かせると、さらにリスクが高くなる可能性がある。コレで決めるしかないんだ。
 大丈夫だ、オレはオマエの能力を信じる」
 
「……うん、わかった。やろう」
 
 ミンティスのその言葉を合図に三人は方々へ散った。
 
「くだらないお喋りは終わったか?」
 
 三人の動きを目と感覚で追いながらヤミハルは言った。三人が何か作戦を立てていることはわかっていたが、特に何をしようとも思わなかった。自分と敵の力量を冷静に分析し、それによる優勢差が覆ることはありえないと踏んだからだ。
 大層な慢心に思えるかもしれないが、それは違う。手を抜くつもりも、舐めているつもりもヤミハルには無い。確実に始末し、何か奇策があるならば、自分はその上を行くだけ。自身の実力によって裏づけされた絶対的な自信は何よりも力となる。それにヤミハルは奥の手をまだ出していない。
 
「敵が秘策を実行してるってのに余裕だな。まあオレがオマエでも、この状況じゃそうなるかもしれないが」
 
 ジャスティスはヤミハルの正面に移動していた。弓を構え、すでに矢が3本番えられている。
 
「……秘策という言葉に嘘は無さそうだな」
 
 異質さがヤミハルの警戒心を高めさせた。番えられている本数が問題なわけではない。矢の芯が黒く濡れたように光っていることも理由ではあるが、さらに目立つ奇妙な点があった。矢の先端、本来鏃がついている位置に、それに代わって小さな円筒形の物質が付いているのだ。
 
「予想はついているだろうが、教えてやる。コノ矢は特殊な可燃性物質でできていてな。コイツを射つと弓との摩擦によって発火する。芯に含まれた高密度酸素によって飛びながら燃焼はさらに進行、そしてついには先端の“火薬の塊”に引火する。後は、わかるだろう?」
 
 爆発。それも相手の体に密着した状態での爆発だ。いくら特殊な甲冑を身に着けているヤミハルといえど、直撃すればダメージは免れない。それに、もし矢を回避したとしても爆発には確実に巻き込まれる。
 
「まあ精密さが無い上に、三本同時射ちとなると命中精度も下がるんだが……」
 
 ジャスティスは体の余分な力を抜き、必要箇所にだけ力を注ぎこむ。
 
「一本ぐらいは当たるだろう!」
 
 そして射った。
 
 三本の漆黒の矢は轟音とともに一瞬にして燃え上がり、空中に紅の線を描く。常人には見ることすらできないスピード、もちろんヤミハルにも見ることはできなかった。しかし、ヤミハルには矢の軌道が“視えて”いた。
 
(一本、届かず地に落ちる。一本、遥か上空)
 
 ヤミハルは経験から矢の軌道に予測を立て、そして確かにそのとおりになった。
 地の矢が爆発し、雪と土を舞い上げる。それによってヤミハルの前方の視覚は奪われたが、はたから矢など見ていないのだ。
 
(一本、直撃!)
 
 射ち方、構え、初期の矢飛び、それらから冷静に分析。自分に矢が直撃するビジョンが視えても、落ち着きを失うことは無い。
 
(矢の直撃を回避したところで、爆発は不可避)
 
 ならば、とヤミハルは考え
 
  槍を上に振り上げた。
 
 
 ガィン、という鈍い音が鳴った。

 「……ふん。舐められたものだな」 

 “空中で引火前に炎と分離された火薬筒”は、くるくると宙を舞った後、虚しく雪に突き刺さった。

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