113.遭(130から

2009年4月17日 日常
 ウルトン達が今戦っている洞窟の壁面にはいくつもの穴が開いていた。
 その横穴の一つから、身を乗り出した一人の男が底で繰り広げられる戦闘を覗き見ていた。
 
「さて、やっとのことですね。【目目連】、貴方の能力も対したこと無いですねぇ?
 ワタクシが見つけたいものなど、すぐさまに発見してしかるべきだと思うのですが」
 
―それは主の力不足だろう。私のせいでは……
 
「ああ!【ゼロ】様々ではないですか?
 これは実に素晴らしいタイミングで出会うことが出来ました!
 この出会いは、漢字ならばそうですね。"遭う"と表現するべきですかね?
 この字が使われている熟語といえば"遭難"がまず挙げられます。この漢字には、あまりよろしくないことに出くわしてしまった、といったような意味が少なからず含まれているのですよ?
 つまり、最悪な時に来てしまった、というワタクシの思いを読み取ってくれればとてもとても嬉しいですね?」
 
―……長々とご苦労ですが、誰も聞いていません。
 
 ミヤイニレはいつもの調子で無駄な言葉を吐き出し続けた。突っ込み虚しく無視された【目目連】が不憫に思えるかもしれない。しかしテレパシーで会話をしている【目目連】に対し、何故か実際に口を動かして言葉を発しているミヤイニレのほうが、はたから見ると空気と会話しているとても可愛そうな人物以外の何者でもない。実際にまともな人間か、と問われても困るのだが。
 
 グィンセイミの一撃によって『敵』の呪縛から逃れた後、ミヤイニレは【目目連】経由の短距離ワープを幾度も繰り返した。召還獣を介してスキルを使用するのは様々な対価が必要なのだが、今回は運も手伝い、対価を払いきる前に捜索対象であるウルトンの元まで辿り着いていた。
 本来ならここでウルトン達と接触し、自身の持つ情報をすぐにでも提供しなければならない。しかし今は状況が違っていた。
 
「近づけませんねえ?」
   
 リペノ・ジャスティス・ミンティスVSヤミハルの戦いは泥沼化していた。3人(ミンティスはほぼ戦力外なので実質2人)が波状攻撃を仕掛けるが、ヤミハルの槍の間合いには長くいられないため必然的にヒットアンドアウェイの形になる。ヤミハルもその状況に焦らず、無理に攻めようとはしないため、自然に消耗戦となっている。もしこの状況でのこのことミヤイニレが現れたならば状況が動き、瞬殺されるか巻き込まれるか、どちらにせよいい方向には進まないだろう。
 ウルトンのほうは、ミヤイニレの予想以上に善戦していた。【神泉】発動後、一部の『性質』操作をマスターしたウルトンは、魔法力が格段に上昇していた。雷撃を包み、弾き、時には【ゼロ:B】によって消し去り、危なげながらも激しい魔法の打ち合いに何とか耐えている。もしこの状況にミヤイニレが飛び込めば、流れ弾に直撃するか、クサモチに気付かれて殺されてしまうだろう。
 
「ふぅむ……
 ……【煙霞の跡なく目目連】」
 
 暫く考えた後、ミヤイニレは黒い靄に浮く大量の目玉に手を伸ばした。
 
―いいのですか。その身体で、支払いきれますか?
  
「まあ、何とかなるでしょう。【ゼロ】様と、ジャスティスのところに」
 
 ミヤイニレは少しだけ自虐的に笑った。靄に突っ込んだ両手を動かし、適当な目を2つ選び、そして握りつぶした。
 
 
=アーアー。えー、皆様方ご機嫌麗しく。お久しぶりでございますねぇ?本日は皆様に吉報ありとのことでご連絡を入れさせて頂いた次第でございます。
 
「何だぁ!? っとうぉ!」
 
 唐突に聞こえた声に驚いたウルトンは、危うく直撃しそうになった魔法を間一髪で避ける。その嫌にくどくどしい台詞はいつの間にか現れた目玉から発せられていた。
 
「……ニレか!」
 
 ジャスティスのほうは瞬時に声の主を理解した。ヤミハルの攻撃に注意を払いながらも、一言も聞き逃さないように耳を集中させる。
 
 
=粗方予想はついているかと思われますが、【雷撃】様と【黒翼】様は恐らく、ほぼ確実に洗脳されています。
  そしてその洗脳解除方法を、ワタクシはついに突き止めることに成功しました!偶然と偶然が重なりあった奇跡の御業ですね?
 
―つまりタダの偶然じゃないですか……長い口上は身を滅ぼします。早めに切り上げるのがよろしいかと。

「煩いですねえ。ここが恐らくワタクシの一番の見せ場になるのですから、これくらい良いではないですか」
 
 例のごとく、【目目連】の忠告は受け入れられない。
 【目目連】を通した、小型目目連へのテレパシーによる、言わば無線電話が最後の情報を伝える。

=その解除方法とは、脳に衝撃を与えることです。
  精神的ショックでも結構。これはリーダー様によって効き目があることが既に証明されてますね?
  まあ、この場合……
  頭部を一撃ガツンとやってしまえばいいのです。 

  それでは、健闘をお祈り申し上げます。ごきげ、ん……よう……
 
 その言葉を最後にミヤイニレは地に倒れ伏した。代償を払いすぎたため、立っていることが出来なくなったためだ。
 
―……長電話にはご注意を。
 
 主が倒れるのを見届けた後、目玉と黒い靄も霧散しその場から消え去った

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