青と黄の鮮やかな槍は、ウルトンの手のひらに吸い込まれるかのように消え去った。直撃すれば高層ビルの壁面に穴を空けるような魔力が、音も無く、一瞬にして消滅したのだ。
 
「え……?」
「……?」
 
 お互いあまりの事態に硬直する。数秒沈黙が続いたが、自分の能力のことを熟知しているウルトンのほうが、ほんの少しだけ早く反応した。
 
(これなら、クサモチと対等に戦える!)
 
 ウルトンは地面を蹴り、クサモチに向かって突っ込んだ。詠唱をし、【水衣】を張りなおす。
 
「……!」
 
 進入を防ぐべく、すかさず炎の壁がクサモチによって張られる。炎は分厚く、触れれば大火傷を負うことになる。だが、ウルトンはあろうことかそのまま炎に向かって突進した。
 
「近づかれる前に殺す、だったよなあ!」
 
 走りながら腕を前に伸ばし、そのままの勢いで地面を両手で思い切り叩いた。本来なら近づく物を焼き焦がすはずの炎が消滅し、地面にウルトンの両手が触れることでその周囲で燃え盛っていた炎までもがいつの間にか消えていた。
 
「俺にはもう、その戦法は効か……!?」
 
 自信満々に言い放ったウルトンに浅い衝撃が走った。衝撃源は足元。
 地面スレスレ、炎の壁によってできていた死角に、鼠花火を思わせるような小さな閃光が這いずり回っていた。何かを感じ取ったクサモチは、対策として事前に放っていたのだ。
 初弾が【水衣】を吹き飛ばし、小さな雷撃が次々と襲い掛かかる。すばしっこい鼠は全ては消しきれず、数発がクリーンヒットをする。
 
「がッ……」
 
 痺れ、ウルトンは地面に倒れる。電撃が体を巡り、体を麻痺させる。その無防備を見逃さず、クサモチは詠唱をした―が。
 
 
「悪逆非道なる」
「【ゼロ:A】!!【対象:クサモチ-【雷魔法】】!」
 
 それは途中で止められることとなった。
 
 痺れから開放されたウルトンは立ち上がり【水衣】を再度張る。
 ウルトンは数撃食らったものの、致命的なダメージは与えられていない。その上今から3分間、【雷撃の魔導士】から【雷魔法】を奪っている。ウルトンがクサモチを抑えるにはここしかない状況だ。
 そんな中、クサモチは額に指を軽く添えながら少し考え、そして口を開いた。
 
 
「……ならば、全方位」
「はっ、全方位だろうがなんだろうが、俺には効かないな!」
 
 恐らくクサモチは、対象を魔法で囲み周りからいっせいに魔法攻撃を行うつもりだ。ウルトンはそう考えていた。それならば、【ゼロ:B】【水衣】そして相殺魔法によってどうにかなる。
 だがその予想は、大きく外れていた。
 
 
「つまり今までのは【ゼロ】による、魔法封じ。
 
 
 ……守るのは、勝つことじゃない」
 
  
 溜められた魔力は風となり、クサモチを覆う。
 
 
 
「だけど、【水魔法】は守りの心。
  
 
  ……ならウルトン、お前に守りきれるか」
 
 
 全方位、その意味を知ったときには、もう遅かった。
 
 
「【ウインドカッター三六〇°】」
 
 
 圧縮された魔力は爆発し、衝撃波となる。形状は円形。洞窟全体に広がり、"立っている者全て"を切り刻む。それはただただ、暴力的な力。

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