ウルトン・リペノ対ヤミハルは、防戦一方の戦いとなっていた。
「行きますよ!」
「俺を敵に回したことを後悔しろ!」
 
 ウルトンとリペノで二人、挟み込む形でヤミハルを包囲。ヤミハルの動きはしなやかなで、扱う槍によって攻撃範囲は極端に広い。そのためウルトンはもちろん、近接型のリペノも一定の距離を取らなければならない。リペノが間合いを見切りながらにじり寄り、ウルトンが背後から詠唱を行う。
 本来戦士と魔法使いのコンビはお互いが隙を埋め合い普段以上の実力を発揮することができる。ただそれは魔法使いが戦士を支援できる場合のみであり、ウルトンは仲間を援護することを主体とした戦いは経験したことが無かった。
 ウルトンの無防備な魔法詠唱、ヤミハルはその隙を見逃さなかった。 
 ヤミハルは槍を強く地面に突き刺し、そのまま横一線に地面を砕き裂いた。雪と微かな岩盤が舞い、リペノの視界を覆い隠すその一瞬をつき、ヤミハルはウルトンに突進した。
 
「ぐっ!?」
 避けきれない一撃は、事前に張られた【水衣】によって防がれていた。2撃目が放たれる前に何とかリペノが追いつき、槍とウルトンの間に刀を滑り込ます。ウルトンを貫くはずだった攻撃は、込められた力と遠心力によってリペノの体ごと軽々しく吹き飛ばした。
 リペノは吹き飛びながら距離をとり、ウルトンはその間に【水衣】を張りなおす。ヤミハルはその間動くことなく、槍を構えなおしていた。
 
「くっそ!舐めやがって!」
「舐めてなどいないさ。致命的なお前の戦闘センスの無さを哀れんではいるけどな」
「何だと!?もういっぺん言ってみろ!!」
 
 ウルトンとの会話によってできた少しの間に、リペノは冷静に現状を分析をする。
 
(無駄な追撃はして来ない……慢心が無い。
 スピードでは僕の方が勝っているみたいだけれども、あの巧みな槍使いで懐に入り込ませてくれない。
 どうにかして隙を作らないと……)
 
「……【メデューサ】」
 リペノの髪の毛がワサワサと動き出し、蛇の形を成す。
 
「可愛らしい髪だな?」
 気配の変化をチラリと確認したヤミハルは少しズレた感想をもらした。リペノはヤミハルの正面ににじり寄り、そのまま元前髪の蛇2匹の眼光がヤミハルの頭を捕らえる。
 
 カイドにたどり着くまで、ポチの言葉によって覚悟を決めたリペノは【メデューサ】の修行をし、ついにはAランクになっていた。
 【メデューサ:A】の持つ能力は石化能力。瞳が蛇の瞳に捕らえられたとき、対象は石と成る。蛇の瞳の数が多ければ多いほど、瞳を捕らえる時間が長ければ長いほど、石化スピードも上昇する。
 だがヤミハルは一向に石化する気配を見せなかった。
 
(やっぱり駄目か……)
 
 ヤミハルの顔はフルフェイスの兜により外界と遮断されている。もちろん外が確認できるよう目の部分には加工がされているのだが、その僅かな隙間からでは蛇はヤミハルの目を認識することができない。
 これではAランク本来の効果は期待できない。ヤミハルが未知なるスキルに警戒し、隙ができる可能性に賭ける。今できる最良の道はそれしか残されていなかった。
 
「やれることは、全てやる!ポチさんだってきっとそうするはずだ!」

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