92.争

2008年6月14日
「だーっ!これにも載ってねえ!」
「図書館ではお静かに」
 
 俺はここ数日ずっと図書館に引きこもっていた。開館の時間には中に入り、本を読み漁りながら勉強をし、閉まるときに数冊本を借りて宿に戻る。
 仕事もせずにこんな生活が出来ているのは遺跡の奴らが押し付けてきた"報酬"のおかげだが、その金ももう少なくなってきていた。
 
「だーかーらー!何だよこの『この部分は省略する』ってのは!」
「図書館ではお静かに!!」
 
 そして何を騒いでいるのかと言うと、見つからないのだ、『性質』に関する詳しい記述が。クサモチの言っていた事程度ならいくつか載っていたが、それ以上のこととなるとほとんどが『省略する』で済ませている。
 時々載っていた!と喜んでみると『『感情』を抑えましょう』とか、『怒ってみましょう、または笑顔になってみましょう』とかいうくだらない文だったりする。もちろんそれも試してはみたが、上手くいっているようには思えなかった。
 
「何が基本技術だクサモチめ!」
「図書館!!!」
 
 もしかしたらフォロッサ大図書館の蔵書になら該当するものがあったのかもしれない。けれども大図書館は俺がカイドを離れるときに何者かの攻撃を受けて倒壊した。あれから結構な時間が経ったが、果たして直っているかは見当がつかない。
 
「まあ一度行ってみるとして」
「図書館では静かにしていたほうがいいと思うんです」
「今は静かだっただろ!?……ん?」
 
「遠くからでもウルトンさんがいるって丸わかりです」
 
 本に集中していたので気付かなかったのか、さっきまで俺と争っていた図書館員はいなくなっていた。
 代わりに理不尽な事を言ってのけたのは、またいつの間にか現れた【猫かぶり】だった。毎度毎度本当に猫みたいに気まぐれに現れる奴だ。
 
「久しぶりだな、あー……」
 
 こいつにも謝らないと。心配して遺跡からずっとついてきてくれたこいつを俺は突き放してしまった。挙句には『死んでしまってもいい』なんてことも思ってしまった。素直に謝ろう。
 
「お前が何しようと俺には関係ねー。が、俺を慕ってここまで着いてきたのは褒めてやる。褒美を何かやろう」
 
 うん、完璧な謝罪だ。
 
「別に慕ってないですし、それに褒美なんていらないです」
 
 こいつは照れ屋なんだろうきっと。そうだいいことを思いついたぞ。
 
「あれだ、俺が魔法を教えてやるよ。大魔法使いウルトン様が師匠なんて鼻が高いぞお前!」
 
「……だから」
 
 【猫かぶり】の声が若干強まった。あれ?何か怒ってる?
 
 
「私は魔法が使えないんです。ご丁寧に可能性0と診断されてるんですから。それに、興味も無いですし
 
「興味、無いのか?まぁそれなら、……仕方ないけど」
 
 【猫かぶり】の口調にもう荒立ったところは無かった。そんなに気にすることも無かったようだ。
 
 
「じゃあまたいつか、です」
  
 その後しばらくして【猫かぶり】は帰っていった。しかし魔法に興味がないとは残念だ。魔法の素晴らしさを教え込んでやろうと思ってたのに。
 まあ今は他人に構っている暇も無いのも事実。俺は俺のために頑張るとしよう。さしあたっては明日にでもフォロッサ大図書館に行って見るかな。

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