86.燃(89と交換)

2008年6月4日
 空中に放り出されたウルトンは何か黒いものに捕らえられた。その黒い物体は数回羽や尻尾でウルトンを優しく弾いてもてあそんだ後、比較的新しい柔らかい雪の上にウルトンを落としてさっさと飛び去っていった。
 
「あのクソトカゲめ……」
 
 今日は本当に運がいい。ヤミハルの"ブラックワイバーン"が偶然にも落下するウルトンを見つけて助けるなんてことそうそう無い事だろう。それとも、もしかしたらカイドでは遥か上空の白の天辺から放り出されるのは日常茶飯事な事なのかもしれない。
 
「そんなことあってたまるか……くそっ」
 
 ウルトンは自分が不甲斐なかった。自分の力の無さが不甲斐なく、それ以上に賢者の石に頼るという選択に走った自分が不甲斐なかった。
 
「何やってんだよ……くそっ、くそっくそっ!」
 
 アトラという古い友人に再会してウルトンの頭は冷え始めていた。それはアトラに軽くあしらわれたからかもしれないし、ただ単純に雪に埋もれているからかもしれない。
 今まで自暴自棄になって短慮を起こしてきた。何人もの人に迷惑をかけ、今カイドの内政が大変だと言う事を理解していながら、アトラにも迷惑をかけてしまった。ユツキが死んだからと言って、そんなわがままは許されることではない。
 
「俺は、何がしたいんだ?何をしたらいいんだ?」
 
 お姉さんは……
 
「何してるんです……?」
 
 "今度"は背後からではなく頭上から声が掛かった。
 
「見てわかんねーのか、雪に浸かってカイドを堪能してるんだよ」
 
「はぁ、まあいいです」
 
 【猫かぶり】の少女はウルトンが城に突入している間、初めてのカイドを堪能するために軽く観光していたらしい。ある程度見て回った後、ウルトンを探していたそうだ。
 
「もうついてくんなって言ったろ。ここで魔法を習うなりなんなり勝手に楽しんでいけよ」
 
「……私は魔法が使えないので」
 
 ウルトンはその言葉に少し違和感を覚えた。しかし考えても引っかかりの正体が分からなかったので放って置くことにした。
 そんなことより、と【猫】は声のトーンを少し落として言った。
 
「2人のプレイヤーを見かけたんです」
 
 唐突にこいつは何を言い出すのか、とウルトンは思ったが、次の言葉を聞いた瞬間【猫】が言わんとしている事がすぐに分かった。
 
「私、ユツキさんに教えられて【灰身】のメンバーの名前を少し覚えているんです」
 
 納まったはずなのに。静まりかけていた感情がまたウルトンの中に燃え上がり始めていた。
 
「あの二人は確かに、【灰身】の一味でした」

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