85.恨
2008年5月29日 結局ウルトンは死なずにカイドの東側にある『コダテ』にたどり着いた。道中何度も倒れたが、それでも修行はやり続けた。コダテの港へつくと、後からかかる「どこへ行くんです?」という【猫】の声は無視して、なけなしのお金でフォロッサ行きの船に乗った。そしてウルトンはすぐに寝息を立て始めた。
――
船員に「フォロッサにつきましたよ」と起こされ船を降りると"また"背後から声が掛かった。
「もしかして、フォロッサ城に行くんですか?」
驚いた。ウルトンは【猫かぶり】の少女はもうついて来れないと思っていた。どうみてもお金を持っていなさそうだったし、船には厳しい身分チェックがあった。ウルトンは以前もらったこの国の王であるアトラの直筆の手紙(と言っても内容は関係ない)があったので何とかなったが、【猫】にそんなコネがあるとは思えなかった。
「これ以上ついて来るんじゃねー、邪魔だ」
言ってはみたが、ついてきたとしてももう何も言うつもりは無かった。そのせいで【猫かぶり】の少女が死んだとしてもウルトンには関係が無いと思えた。
――
「フォロッサ城に何用か!」
城門につく頃には【猫】の気配は消えていた。空気が読めたのかもしれない。
門番が以前よりもピリピリしているのがウルトンにもわかった。しかも前は職務を放棄して開け放たれていた門が硬く閉ざされている。シムシとの戦争の影響だろう。
門番は2人、まずは鍵を手に入れる必要があるな、とウルトンは考えた。
「よぉ、ウルトン様がはるばるやってきてやった。門を開けろ」
自然に気軽に門番に近づいた。ウルトンの手にはいつぞやの挑戦状が握られており、それを門番に渡す。いぶかしげな顔で警戒していた門番だったが文章を読み終えると、ああ何だお前か、と呆れた顔になった。
「悪いが今は知っての通りシムシと交戦中で忙しいんだ。いくらアトラ王様の直々の招待があったしても相手をしてやる暇は無い」
「いやいやそこを何とか」
さらに近づく。警戒されている素振りは無い。鍵は、右の門番の腰の後ろに数本まとめてぶら下げてあった。
「*******」
「え? うわあああっ」
ウルトンは素早くはっきりと詠唱をした。指先から飛び出した小さな炎は門番の腰辺りの布を焼く。拘束を失い落ちてきた鍵をウルトンは起用にキャッチした。
「なんだどうした!?」
もう一人の門番が走り寄ってきた。火がついた門番はそれを消そうと雪の上を転げまわっている。
それらを無視してウルトンは門に近づいた。手に入れた鍵の中から適当に一本を選んで鍵穴に突っ込んで回す。ガチャリ、と鍵が開く音がした。今日はついてるな、とウルトンは思った。
「き、貴様何をしている!」
門が半分以上開いたときにやっと門番がウルトンが何をしているのか気付いた。
「***********!」
今度はさっきよりも少し強く詠唱をした。そして、門が燃え始めた。正確に言えば特殊な加工がされているであろう門は燃えはしないのだが、現れた渦巻く炎は門を完全に覆い尽くした。これで炎が消えるまで誰もこの城には入って来れない。
ウルトンは走り出した。炎の位置固定が限界に達すると、また新たに炎を呼び出し壁を作った。
「まあ誰かが火達磨になったとしても」
ウルトンは走りながら一人ごちた運が良い事に目的の場所にたどり着くまでに誰にも会わなかった。
「外は雪だ。死にはしないだろ」
王の間、不思議なことに見張りもいなかったが、ウルトンにとっては好都合だった。
扉を開ける。同時に来客を見越していたかのように偉そうな声が響いた。
「おーおー、お主か。いつぞやのゲームはクリアじゃのう?
城内がやけに騒がしいと思うとったら、久しく顔を見せない間に随分と成長したもんじゃ」
アトラは変わらず飄々として、ある種のオーラを放っていた。ウルトンはその様子に少し苛立ちを覚えたが、すぐに"用"を伝える事にした。
「軽口はやめろ。俺に力をよこせ」
「……性格も随分と傲慢になったようじゃのう?それは元からじゃったな」
動じずに少しおどけるようなアトラの物言いにウルトンの苛立ちは更に募っていく。
ユツキがいなくなってから今までに、中に中にと溜め込んでいた怒りがいつの間にか放出されていた。
「うるさい!!いいからさっさと俺に"賢者の石"をよこせ!!!」
賢者の石。術者の能力を極大までに上昇させることができる神秘の物質。その代わりにモンスターを呼び集めるという欠点もある危険な代物だ。
「おうおう、言いよるのう若造が。お主の今の発言、自分はカイドの反逆者だ、と自己申告しておるようなものじゃぞ?」
「それでも……構わない」
ウルトンは睨みつける形で、アトラは全てを見透かすかのように視線を交わしていた。
「……何があったのかは儂には分からん。分からんが、そんな"恨み"に沈んだ心でお主の力が引き出されるわけ無かろう。例え賢者の石を手に入れたところで同じ事、お主は弱いままじゃ」
「ふざけんじゃ……!」
「さっきのクリア宣言は撤回じゃの。今儂に捕まったからのう」
殴りかかろうとするウルトンの片足はいつの間にかロープ状のもので縛り付けられていた。それはアトラの手から一瞬で放たれた鞭だった。
「今回はおぬしの行動を不問にしよう。そうじゃな、頭が冷えたら……カイド中の図書館を回ってみると良いぞ。どこかに奴もおるじゃろうて」
そういってアトラは手を軽く上げ横に振った。その動きにあわせて鞭がしなり、鞭によって片足を拘束されているウルトンも宙に浮いた。そしてウルトンが抵抗する間も無く、窓の外に思いっきり放り出された。ちなみにココは城の最上階である。
「外は雪じゃ。まあ恐らく、死にはしないじゃろう、多分。……しかし、賢者の石とは……」
国の宝物、アトラの持ち物である賢者の石は既にカイドの元には無かった。それにより少なからずカイドの勢力は減少していた。また立て続けに起こるシムシとの交戦や外務などもあり、アトラは正直疲れていた。お忍びで町にでる暇すらない。
「王!!こんなところにおいでで。勝手に出歩かないで頂きたい。クサモチもどこへ行ったんだか全く……!」
そして今は会議中だったのだが、アトラは自室に逃げ込んでいた。クサモチといえばあまりの激務に城から蒸発していた。
「さてはて……これからどうなることかの?」
カイドの王アトラは、少し自嘲気味に笑った。
――
船員に「フォロッサにつきましたよ」と起こされ船を降りると"また"背後から声が掛かった。
「もしかして、フォロッサ城に行くんですか?」
驚いた。ウルトンは【猫かぶり】の少女はもうついて来れないと思っていた。どうみてもお金を持っていなさそうだったし、船には厳しい身分チェックがあった。ウルトンは以前もらったこの国の王であるアトラの直筆の手紙(と言っても内容は関係ない)があったので何とかなったが、【猫】にそんなコネがあるとは思えなかった。
「これ以上ついて来るんじゃねー、邪魔だ」
言ってはみたが、ついてきたとしてももう何も言うつもりは無かった。そのせいで【猫かぶり】の少女が死んだとしてもウルトンには関係が無いと思えた。
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「フォロッサ城に何用か!」
城門につく頃には【猫】の気配は消えていた。空気が読めたのかもしれない。
門番が以前よりもピリピリしているのがウルトンにもわかった。しかも前は職務を放棄して開け放たれていた門が硬く閉ざされている。シムシとの戦争の影響だろう。
門番は2人、まずは鍵を手に入れる必要があるな、とウルトンは考えた。
「よぉ、ウルトン様がはるばるやってきてやった。門を開けろ」
自然に気軽に門番に近づいた。ウルトンの手にはいつぞやの挑戦状が握られており、それを門番に渡す。いぶかしげな顔で警戒していた門番だったが文章を読み終えると、ああ何だお前か、と呆れた顔になった。
「悪いが今は知っての通りシムシと交戦中で忙しいんだ。いくらアトラ王様の直々の招待があったしても相手をしてやる暇は無い」
「いやいやそこを何とか」
さらに近づく。警戒されている素振りは無い。鍵は、右の門番の腰の後ろに数本まとめてぶら下げてあった。
「*******」
「え? うわあああっ」
ウルトンは素早くはっきりと詠唱をした。指先から飛び出した小さな炎は門番の腰辺りの布を焼く。拘束を失い落ちてきた鍵をウルトンは起用にキャッチした。
「なんだどうした!?」
もう一人の門番が走り寄ってきた。火がついた門番はそれを消そうと雪の上を転げまわっている。
それらを無視してウルトンは門に近づいた。手に入れた鍵の中から適当に一本を選んで鍵穴に突っ込んで回す。ガチャリ、と鍵が開く音がした。今日はついてるな、とウルトンは思った。
「き、貴様何をしている!」
門が半分以上開いたときにやっと門番がウルトンが何をしているのか気付いた。
「***********!」
今度はさっきよりも少し強く詠唱をした。そして、門が燃え始めた。正確に言えば特殊な加工がされているであろう門は燃えはしないのだが、現れた渦巻く炎は門を完全に覆い尽くした。これで炎が消えるまで誰もこの城には入って来れない。
ウルトンは走り出した。炎の位置固定が限界に達すると、また新たに炎を呼び出し壁を作った。
「まあ誰かが火達磨になったとしても」
ウルトンは走りながら一人ごちた運が良い事に目的の場所にたどり着くまでに誰にも会わなかった。
「外は雪だ。死にはしないだろ」
王の間、不思議なことに見張りもいなかったが、ウルトンにとっては好都合だった。
扉を開ける。同時に来客を見越していたかのように偉そうな声が響いた。
「おーおー、お主か。いつぞやのゲームはクリアじゃのう?
城内がやけに騒がしいと思うとったら、久しく顔を見せない間に随分と成長したもんじゃ」
アトラは変わらず飄々として、ある種のオーラを放っていた。ウルトンはその様子に少し苛立ちを覚えたが、すぐに"用"を伝える事にした。
「軽口はやめろ。俺に力をよこせ」
「……性格も随分と傲慢になったようじゃのう?それは元からじゃったな」
動じずに少しおどけるようなアトラの物言いにウルトンの苛立ちは更に募っていく。
ユツキがいなくなってから今までに、中に中にと溜め込んでいた怒りがいつの間にか放出されていた。
「うるさい!!いいからさっさと俺に"賢者の石"をよこせ!!!」
賢者の石。術者の能力を極大までに上昇させることができる神秘の物質。その代わりにモンスターを呼び集めるという欠点もある危険な代物だ。
「おうおう、言いよるのう若造が。お主の今の発言、自分はカイドの反逆者だ、と自己申告しておるようなものじゃぞ?」
「それでも……構わない」
ウルトンは睨みつける形で、アトラは全てを見透かすかのように視線を交わしていた。
「……何があったのかは儂には分からん。分からんが、そんな"恨み"に沈んだ心でお主の力が引き出されるわけ無かろう。例え賢者の石を手に入れたところで同じ事、お主は弱いままじゃ」
「ふざけんじゃ……!」
「さっきのクリア宣言は撤回じゃの。今儂に捕まったからのう」
殴りかかろうとするウルトンの片足はいつの間にかロープ状のもので縛り付けられていた。それはアトラの手から一瞬で放たれた鞭だった。
「今回はおぬしの行動を不問にしよう。そうじゃな、頭が冷えたら……カイド中の図書館を回ってみると良いぞ。どこかに奴もおるじゃろうて」
そういってアトラは手を軽く上げ横に振った。その動きにあわせて鞭がしなり、鞭によって片足を拘束されているウルトンも宙に浮いた。そしてウルトンが抵抗する間も無く、窓の外に思いっきり放り出された。ちなみにココは城の最上階である。
「外は雪じゃ。まあ恐らく、死にはしないじゃろう、多分。……しかし、賢者の石とは……」
国の宝物、アトラの持ち物である賢者の石は既にカイドの元には無かった。それにより少なからずカイドの勢力は減少していた。また立て続けに起こるシムシとの交戦や外務などもあり、アトラは正直疲れていた。お忍びで町にでる暇すらない。
「王!!こんなところにおいでで。勝手に出歩かないで頂きたい。クサモチもどこへ行ったんだか全く……!」
そして今は会議中だったのだが、アトラは自室に逃げ込んでいた。クサモチといえばあまりの激務に城から蒸発していた。
「さてはて……これからどうなることかの?」
カイドの王アトラは、少し自嘲気味に笑った。
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