83.周

2008年5月22日
 急にミンティスが良くわからない言葉を叫んだかと思うと、世界が暗転した。暗闇が明けるとそこは太陽が照りつける衆ではなく、適度な気温の薄暗い乱雑な部屋の中だった。
 
「あれ?ジャスどこ?……いないなあ」
  
「どうなったんですか?ここは、衆ではないですよね?」
 
「ん?あっえーと……簡単に言うと、うーん。
 中立国の『プロ』だよ!」
 
 恐ろしい。元々リペノたちがいた場所から『プロ』まではかなり離れていた。それだけの空間移動をするには相当の魔力か、レアアイテムが必要だ。
 【念止力】といい、この少女は一体何者なのだろうか。
 
「あなたに会わせたい人がいたんだけど今いないみたい。
 もし、忙しくなければ夕方また会える?」
 
 特にそこまで急いでいるわけではなかったのでリペノはその申し出を受け入れ、日が陰った頃にプロの中央公園で落ち合うことになった。 
 ミンティスを部屋に残して質素なつくりの家(というより小屋)を出る。プロは広いので適当に歩いて大通りに出てまずは現在位置を確認する。その後は夕方まで、情報屋をぶらぶらと歩いて回って時間を潰した。
 
「シムシカイド戦争嵐の前の静けさ?……か」
 それは購入した情報誌の一面の文字だった。シムシとカイドの戦争は一時沈静化されているらしい。だが一触即発の状況は変わず、いつまた勃発するか分からない、とのことだった。
 
「はぁ……どこも、荒れてるなあ」
 
−−−
 −夕方
 
 リペノは日の沈む少し前から中央公園のベンチで休んでいた。グラウンドは何やら良くわからない球技をするプレイヤーや、良くわからない屋台などで賑わっていた。
 ここはこんなにも平和なのに。恐らくシムシも衆もカイドも生活の一片だけを覗けば平和にしか見えないのだろう。表面に現れないところで荒廃は広がり、気付いたときにはもう取り返しはつかない。【未来視】を持つ衆の長の周でさえも内乱の勃発を止める事は出来なかった。
 未然に防ぐことが出来ないなら、起きてしまったことを最小限に抑える努力が必要だ。しかし、完全に無かった事にはできない。それこそ、【奇跡】を使わない限り不可能な話だろう。
 
 リペノがしばらく思考に浸っているとミンティスがやってきた。大きく手を振っているので小さく手を振り返す。隣には赤いマントを羽織った金髪の男がいた。会わせたいプレイヤーとはこの人だろうか。
 
「話はミンから聞いた。コイツを助けてくれた事に対し、オレの正義を持って、礼を言う。サンキューな」
 
 プレイヤーネーム:ジャスティスは、釣り目なのだがミンティスと同じく大きな目をしているので人相を悪く感じさせない顔立ちだった。
 
「ほんとありがとうね!」
 
「……オマエは向こうでもう少し反省してろ!」
 
 気軽な態度のミンティスにジャスティスは吼えた。ちぇっという顔でミンティスは少し離れた。
 
 ミンティスが離れたのを確認すると、ジャスティスはふぅ、とため息を一つつき、
 
「オレが目を離したのがいけなかった。本当に恩に着る」
 
 と真摯に謝った。
 
「はぁ」
 
 リペノは夫婦漫才に少し置いてきぼりになっていた。
 
 
 

 3人で少し雑談をしたあと、
 
「リペノはこれからどうするの?」
 
 という話になった。
 特に行きたい場所があるわけではないが、ウルトンは恐らくカイドに向かうだろう。もう一度会う必要があるからには、じっとしているよりも一国で偶然遭遇するというありえない確率に賭ける事にした。
 
「このままカイドに向かおうかと思います」
 
 リペノが答えると
 
「カイドか……いいな、掃除は粗方終わったし、雪国というものを一度見てみたいからな」
 
 ジャスティスが何故か同意し
 
「え、あの?」
 
 戸惑っている間に
 
「よし!あたしたちもついていこう!」
 
 ミンティスが決定した。
  
 
 
 旅は道連れ世は情けである。

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