74.花(69から
2008年5月19日「ユツキさんが昇天しました!」
静寂は一瞬で、また元の喧騒が戻る。しかし先ほどまでの歓喜に満ちた騒がしさは無く、混乱と不安だけが空間を支配していた。
ある村人は情報を伝えた村人を問い詰め、ある村人は敵が攻め込んでくるのではないかと怯え、ある村人は恩人を失った悲しみに泣く。
「…………」
もっとも深くユツキに関わっていたであろうプレイヤーは、立っていた。いつもの多彩な表情はなく、ただ無表情で、ただ立っていた。
ウルトンはまるで耳だけが機能しているようだな、と思った。情報だけを淡々と拾っていく。
「ユツキさんは門を背に、プレイヤーネーム『サカグ』をすぐに倒しました。
それはもう圧倒的な強さで……
しかし突如として【灰身】のリーダーであるスノウが現れたのです!
ええ、突然です。いきなり現れたのです」
門番は演説でもするかのように民衆に説明を与える。
喧騒は多少収まっていた。情報を手に入れようと、民衆が少し落ち着きを取り戻したからだ。
「見張りの私は門を突破されてしまうと恐れました。
しかしスノウは門には目もくれず、ユツキさんに近づき
卑怯にも後ろから……!!」
ブーイングが巻き上がる中、ウルトンは思う。そんなこと、どうでもいいことだろ。
「僕が……」
リペノは膝を地面につけていた。リペノとユツキは昨日今日知り合った仲だ。薄情なプレイヤーではそんな関係の者の死など気にも留めないかもしれない。しかしリペノは情が深く、そして責任感が人一倍強かった。
「僕が、スノウを倒せなかった、から……?」
リペノは門を守るために【メデューサ】を使った。しかしそれはスノウの警戒心を煽り、足止めではなく逃げを選択させた。その選択がユツキの死を引き起こした。リペノにはそうとしか考えられなかった。
ゴ……ゴゴ……ゴゴゴ……
騒ぎに紛れて、古城、つまりこの集落が震動し始めた。
村人たちがそれに気付いたのは集落が徐々に地面を離れ、今や上空5mほどの位置に達したときだった。
しかし、町の中央に集まっている彼らには宙を浮いているということを知る事は出来なかった。
恐らくは、見張り塔からの伝達が来るまではこの事実を知る事は無いだろう。集落は分からない程度に徐々に移動する。
「おい、お前ら……
何だあ?一段落したってのにうるせえ奴らだな」
いつの間にかやって来たグィンセイミが場にそぐわない落ち着いた声を発した。
グィンは"ある事"を伝えに来たのだが、現状を把握することを優先したようだ。ある程度冷静さを取り戻している一人の村人が説明する。
「……そうか、死んだか。だが俺には関係ねえ話だな」
一通りの説明が終わった後、グィンセイミは興味なさそうに答えた。そして本来の目的を達成するための行動に移るために村人を集め始める。
「本当に、お姉さんは死んだのか……?」
ウルトンはその目で確認をした見張りに最後の確認を取っていた。それが無意味なことだとは理解していた。
「昇天の光を、確かに確認しました……」
「……そう、か」
それでももしかしたら、という思考はウルトンには何故か存在しなかった。アルル大渓谷で昇天の光は嫌というほど見たからだろうか。
後悔だけが心を支配した。何か一つでも変えられていたら、助ける事が出来たかもしれない。もう会えないのだ。あの人に、二度と。
「二度と、会えない……」
後悔は徐々に、恨みに変わった。ウルトンの中に淀みが生まれた。
集落はいつの間にか湿地林を抜け、地上には綺麗な花が咲き乱れていた。
静寂は一瞬で、また元の喧騒が戻る。しかし先ほどまでの歓喜に満ちた騒がしさは無く、混乱と不安だけが空間を支配していた。
ある村人は情報を伝えた村人を問い詰め、ある村人は敵が攻め込んでくるのではないかと怯え、ある村人は恩人を失った悲しみに泣く。
「…………」
もっとも深くユツキに関わっていたであろうプレイヤーは、立っていた。いつもの多彩な表情はなく、ただ無表情で、ただ立っていた。
ウルトンはまるで耳だけが機能しているようだな、と思った。情報だけを淡々と拾っていく。
「ユツキさんは門を背に、プレイヤーネーム『サカグ』をすぐに倒しました。
それはもう圧倒的な強さで……
しかし突如として【灰身】のリーダーであるスノウが現れたのです!
ええ、突然です。いきなり現れたのです」
門番は演説でもするかのように民衆に説明を与える。
喧騒は多少収まっていた。情報を手に入れようと、民衆が少し落ち着きを取り戻したからだ。
「見張りの私は門を突破されてしまうと恐れました。
しかしスノウは門には目もくれず、ユツキさんに近づき
卑怯にも後ろから……!!」
ブーイングが巻き上がる中、ウルトンは思う。そんなこと、どうでもいいことだろ。
「僕が……」
リペノは膝を地面につけていた。リペノとユツキは昨日今日知り合った仲だ。薄情なプレイヤーではそんな関係の者の死など気にも留めないかもしれない。しかしリペノは情が深く、そして責任感が人一倍強かった。
「僕が、スノウを倒せなかった、から……?」
リペノは門を守るために【メデューサ】を使った。しかしそれはスノウの警戒心を煽り、足止めではなく逃げを選択させた。その選択がユツキの死を引き起こした。リペノにはそうとしか考えられなかった。
ゴ……ゴゴ……ゴゴゴ……
騒ぎに紛れて、古城、つまりこの集落が震動し始めた。
村人たちがそれに気付いたのは集落が徐々に地面を離れ、今や上空5mほどの位置に達したときだった。
しかし、町の中央に集まっている彼らには宙を浮いているということを知る事は出来なかった。
恐らくは、見張り塔からの伝達が来るまではこの事実を知る事は無いだろう。集落は分からない程度に徐々に移動する。
「おい、お前ら……
何だあ?一段落したってのにうるせえ奴らだな」
いつの間にかやって来たグィンセイミが場にそぐわない落ち着いた声を発した。
グィンは"ある事"を伝えに来たのだが、現状を把握することを優先したようだ。ある程度冷静さを取り戻している一人の村人が説明する。
「……そうか、死んだか。だが俺には関係ねえ話だな」
一通りの説明が終わった後、グィンセイミは興味なさそうに答えた。そして本来の目的を達成するための行動に移るために村人を集め始める。
「本当に、お姉さんは死んだのか……?」
ウルトンはその目で確認をした見張りに最後の確認を取っていた。それが無意味なことだとは理解していた。
「昇天の光を、確かに確認しました……」
「……そう、か」
それでももしかしたら、という思考はウルトンには何故か存在しなかった。アルル大渓谷で昇天の光は嫌というほど見たからだろうか。
後悔だけが心を支配した。何か一つでも変えられていたら、助ける事が出来たかもしれない。もう会えないのだ。あの人に、二度と。
「二度と、会えない……」
後悔は徐々に、恨みに変わった。ウルトンの中に淀みが生まれた。
集落はいつの間にか湿地林を抜け、地上には綺麗な花が咲き乱れていた。
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