72.終 (64から)
2008年2月7日 動かない体と回らない思考、そして目の前の巨大スライム。もうどうしようもない、これが絶体絶命という状況なんだろう。
「おい、この状況はてめえが作り出したんだ。てめえが何とかしやがれ」
ああ、そういえば非協力的な男もいたな。
思考はかすかに働いても、喋ることすら思うようにならないこの体じゃ憎まれ口をたたく事も出来ない。
「クソ、この粘体野郎何を考えてやがる!」
グィンが叫ぶ。さっきまでは【ジョゴス】は粘液を飛ばして攻撃していた。しかし今、つまり召喚主であるミヤイニレが消えてからは体をさらにドロドロに変化させ、地面に膜を作るように広がってきている。
これは確実に敵を捕らえるための捕食活動だろう。その証拠に、もう走り回って逃げるということは出来ない。粘液が浸っていない部分が十数平方メートル分しかないからだ。俺の足元にも、もう粘液が……
「チッ」
体が浮き上がる。グィンセイミが俺を持ち上げていた まさかこいつが俺を担いで……?なんて思ったのも束の間、思い切り投げ飛ばされて門に打ち付けられる。呼吸が一瞬止まった。ただでさえ毒で息苦しいというのにあの野郎……
「グィンセイミさん!今門を開けますから!」
見張り塔から声が響く。遺跡の村人そのAだ。
そうか、このスライムは今や召喚主を失ったただのモンスター。粘性でのろい分、俺たちだけが門をくぐることは可能だ。遺跡内に入ってしまえば何とか……
「ダメだ!忌避バリアが張ってあるから奴はそう簡単に入れやしねえ。だがな、どこかに奴の飼い主が隠れてるかもしれねえだろうが!それよりも遮断システムはまだか!」
「も、もう少しです!」
今俺たちが逃げると遺跡の民が襲われる。それは分かった。だけどなグィン、もう俺たちは門に追い込まれている。お前に何か手があるのか?俺にはもう何も無いぞ!
虚ろな目で訴えかける。こんな状況だからだろうか、あの最低のグィンに珍しく意思が伝わった。
「俺はシムシを見捨てねえ。どんな状況でも絶対に見捨てねえ。国も民も財産もだ!シムシを救うためなら何だってする。何だってだ!」
グィンセイミはそう言って辛うじて物として成り立っていた工具箱をジョゴスの中心部に投げつけた。異物が体内に侵入したのを察知したジョゴスは若干動きを鈍らせたが、すぐに消化を完了し何事も無かったかのように侵食を再開する。
「たとえ命だろうが……」
まさか、こいつ遺跡の為に捨て身で!?今までずっと最低な奴だと思っていた。でもこいつは、遺跡を守ろうとこんなに必死になって……
「工具箱じゃあダメだったが、栄養たっぷりの肉体だったらもう少し時間が稼げるだろうよ!命ぐらいくれてやらあ!!
そう、お前の命だろうが!俺は全く気にもしねえええ!!!」
体が再度浮き上がる。え、何?事態が把握できない。つまりあれか、俺をえさに奴を引き止めると、なるほどな。
グィンてめええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!
グィンセイミは思い切り振りかぶる体勢、俺はさながらただのボール。だめだ、こいつは本気だ。殺される。
―ピロロロロロロ―
「あづっ」
間抜けな音と声と同時にグィンの手は俺を離していた。放り出された俺の目が捕らえたのは、体の何箇所かに小さい火がついているグィンセイミと、空中を舞う鳥だった。間違いない、あれはお姉さんの肩に止まっていた銅像のような鳥だ。あいつは炎を吐けるパートナーだったのか?
何はともあれ俺が餌になることはなくなった。個人的窮地を脱したせいかいくらか思考が冷静になりすぎる。しかしこんな小さな火しか吐けない鳥があのスライムを押さえられるわけがない、状況は何も変わっていない。
俺の心配を知ってか知らずか鳥は旋回をしながら倒れている俺の肩の上に着陸した。鳥は大きく口を開いていた、ここから炎を出すのだろうか?興味本位で口の中を覗いてみた俺は、ありえないものを見た。
"人の瞳と腕"がそこには存在した。口から伸びる手のひらから泡がいくつも飛び出す。地面に落ちた泡は粘液の10倍近い速度で一瞬にして広がり、ジョゴスの全てを覆いきった。
いつの間にか口から生えている手は2本になっていた。両手のひらから粉雪が勢い良く噴出し、ジョゴスを覆う泡に降り積もる。
間違いない、こんな芸当が出来るのはお姉さんしかいない。どうやったのか知らないが、俺はまたお姉さんに助けられてしまった。
粘液の動きは完全に止まったころ、腕が奇妙な動きを示した。まるで電撃でも走ったかのように一瞬びくりと振動し、そして口の中から消え去った。俺はもう少し鳥の口の中を調べたかったが、それ以降鳥が口を開けることは無かった。
暫くして門が奇妙な音とともに緑色に染まり始めた。
「遮断システム起動完了しました!」
「なんだか知らねえが助かったな」
とりあえず動けるようになったら、こいつを火あぶりにしよう。復讐計画を立てたところで、俺の意識は完全に途絶えた。
「おい、この状況はてめえが作り出したんだ。てめえが何とかしやがれ」
ああ、そういえば非協力的な男もいたな。
思考はかすかに働いても、喋ることすら思うようにならないこの体じゃ憎まれ口をたたく事も出来ない。
「クソ、この粘体野郎何を考えてやがる!」
グィンが叫ぶ。さっきまでは【ジョゴス】は粘液を飛ばして攻撃していた。しかし今、つまり召喚主であるミヤイニレが消えてからは体をさらにドロドロに変化させ、地面に膜を作るように広がってきている。
これは確実に敵を捕らえるための捕食活動だろう。その証拠に、もう走り回って逃げるということは出来ない。粘液が浸っていない部分が十数平方メートル分しかないからだ。俺の足元にも、もう粘液が……
「チッ」
体が浮き上がる。グィンセイミが俺を持ち上げていた まさかこいつが俺を担いで……?なんて思ったのも束の間、思い切り投げ飛ばされて門に打ち付けられる。呼吸が一瞬止まった。ただでさえ毒で息苦しいというのにあの野郎……
「グィンセイミさん!今門を開けますから!」
見張り塔から声が響く。遺跡の村人そのAだ。
そうか、このスライムは今や召喚主を失ったただのモンスター。粘性でのろい分、俺たちだけが門をくぐることは可能だ。遺跡内に入ってしまえば何とか……
「ダメだ!忌避バリアが張ってあるから奴はそう簡単に入れやしねえ。だがな、どこかに奴の飼い主が隠れてるかもしれねえだろうが!それよりも遮断システムはまだか!」
「も、もう少しです!」
今俺たちが逃げると遺跡の民が襲われる。それは分かった。だけどなグィン、もう俺たちは門に追い込まれている。お前に何か手があるのか?俺にはもう何も無いぞ!
虚ろな目で訴えかける。こんな状況だからだろうか、あの最低のグィンに珍しく意思が伝わった。
「俺はシムシを見捨てねえ。どんな状況でも絶対に見捨てねえ。国も民も財産もだ!シムシを救うためなら何だってする。何だってだ!」
グィンセイミはそう言って辛うじて物として成り立っていた工具箱をジョゴスの中心部に投げつけた。異物が体内に侵入したのを察知したジョゴスは若干動きを鈍らせたが、すぐに消化を完了し何事も無かったかのように侵食を再開する。
「たとえ命だろうが……」
まさか、こいつ遺跡の為に捨て身で!?今までずっと最低な奴だと思っていた。でもこいつは、遺跡を守ろうとこんなに必死になって……
「工具箱じゃあダメだったが、栄養たっぷりの肉体だったらもう少し時間が稼げるだろうよ!命ぐらいくれてやらあ!!
そう、お前の命だろうが!俺は全く気にもしねえええ!!!」
体が再度浮き上がる。え、何?事態が把握できない。つまりあれか、俺をえさに奴を引き止めると、なるほどな。
グィンてめええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!
グィンセイミは思い切り振りかぶる体勢、俺はさながらただのボール。だめだ、こいつは本気だ。殺される。
―ピロロロロロロ―
「あづっ」
間抜けな音と声と同時にグィンの手は俺を離していた。放り出された俺の目が捕らえたのは、体の何箇所かに小さい火がついているグィンセイミと、空中を舞う鳥だった。間違いない、あれはお姉さんの肩に止まっていた銅像のような鳥だ。あいつは炎を吐けるパートナーだったのか?
何はともあれ俺が餌になることはなくなった。個人的窮地を脱したせいかいくらか思考が冷静になりすぎる。しかしこんな小さな火しか吐けない鳥があのスライムを押さえられるわけがない、状況は何も変わっていない。
俺の心配を知ってか知らずか鳥は旋回をしながら倒れている俺の肩の上に着陸した。鳥は大きく口を開いていた、ここから炎を出すのだろうか?興味本位で口の中を覗いてみた俺は、ありえないものを見た。
"人の瞳と腕"がそこには存在した。口から伸びる手のひらから泡がいくつも飛び出す。地面に落ちた泡は粘液の10倍近い速度で一瞬にして広がり、ジョゴスの全てを覆いきった。
いつの間にか口から生えている手は2本になっていた。両手のひらから粉雪が勢い良く噴出し、ジョゴスを覆う泡に降り積もる。
間違いない、こんな芸当が出来るのはお姉さんしかいない。どうやったのか知らないが、俺はまたお姉さんに助けられてしまった。
粘液の動きは完全に止まったころ、腕が奇妙な動きを示した。まるで電撃でも走ったかのように一瞬びくりと振動し、そして口の中から消え去った。俺はもう少し鳥の口の中を調べたかったが、それ以降鳥が口を開けることは無かった。
暫くして門が奇妙な音とともに緑色に染まり始めた。
「遮断システム起動完了しました!」
「なんだか知らねえが助かったな」
とりあえず動けるようになったら、こいつを火あぶりにしよう。復讐計画を立てたところで、俺の意識は完全に途絶えた。
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