64.剣  (63から)

2008年1月21日
―東門 外 リペノ
 
気持ちいい風。
まるでこれから起こる戦闘なんか意に介していないようだ。
 
僕らが民宿代わりにしていた空き家は遺跡の中央よりも西よりに位置していた。
多分ウルトンさんが一番早く門外にたどり着くだろう。
 
いけないいけない。今は他人のことを考えている暇はない。
ここで集中を乱して、もし僕が門を突破されてしまったら、それこそ皆を危険にさらしてしまう。
 
今回の僕らの目的は"準備"が揃うまでの時間稼ぎ。
具体的にどのくらいの時間を稼げればいいのかは、昨日はグィンセイミさんは教えてくれなかった。
というよりは分からなかったんだと思う。
遺跡に備わったLive開始当初のシステム、僕には機械の事は分からないけども、
それを起動させようとしているんだ。加減が分からないのも無理は無い。
まぁ相手は召喚士だ。
「召喚する暇を与えない事」に重点をおいて戦えば、
一定時間足止めすることは大して難しいことじゃないだろう。
 
 
まだ爽やかな風が流れている。
遺跡東側の環境は、僕らが遺跡にやってきた西側より随分良いようで、
ぬかるみではなく森を切り開いて出来たであろう草原が広がっていた。
今がこんな時じゃなければ、原っぱに寝転がって昼寝でもするのに。
 
 
風が不意に止まった。空気が凍りつき、生命の息吹の音も消えた。
森と草原の境目から、ダレかが、近づいてきている。
 
実力は五分程度だと踏んでいた。
足止めすることも可能だと思っていた。
 
有り得ない。不可能だ。
 
 
混乱の中見開いた目が30m先まで迫ったその人を見た。
ああ、と理解する。全身に走る寒気の発生源は、彼女か、と。
 
細身で長身。淡い青色の髪の毛が腰まで垂れている。
外見は非力で、魔法使いか召喚士と思わせる。
しかし、数多の戦場を駆け抜けた熟練の剣士で、
もしくは拳で岩を破壊させる力を持つ怪力者と言われても納得させられてしまう。
彼女はそんな空気を纏っていた。
 
気が付くと体が小刻みに震えていた。与えられた寒気が止まらない。
それを抑えるように、口を開く。
 
「あなたが、【灰身】のリーダーのスノウさん、ですね」
目の前まで迫ったその威圧感に、ネーム確認なんて今さら必要が無かった。
ただ、何かを口に出すことが重要だった。
 
「その通り、私がスノウだ。
 そして私が用があるのは、この遺跡要塞と住民のみ。
 お前を殺すつもりも、意味も無い。
 怖いのだろう。怪我をしたくなくば去るが良い。
 体が震える恐怖で済む今のうちに」
 
外見に似合わない男勝りな言葉を残し、スノウは僕の横を通り過ぎるために歩を進めた。
 
同時にごく自然に引き抜いた刀を横に突き出し、スノウの進路を阻む自分が存在した。
 
自分よりも数段経験があり、数段実力も上なその相手は、怪訝そうに、それでいて威圧感を持ち続けた顔を向けた。
 
「すごく怖い……ですよ。でも、どうしてだろ。
 感情がどうしようもなく高ぶるんです。体の中から力が湧き出てくるんです。
 貴方のような人と戦えるなんて、すごく怖くて、すごく嬉しいんですよ!」
  
自分でもおかしな事を言っている気がする。
でもこれから戦う相手はそうは思わなかったらしい。

「……上等だ」

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