63.走 (75から

2008年1月21日
今集落周辺に集まっている【灰身】のメンバーは3人。
リーダーのスノウ、大剣使いのサカグ、召喚士のミヤイニレ。
彼らが3人固まって攻めてくることはまずないだろう。
遺跡に危険スキルを持つプレイヤーがいることは彼らも承知の上なのだし、
いくら戦闘に不慣れなものたちばかりだとしても、
トラップなどを施されて全滅などしてはもってのほかだからだ。
 
【検索】で3人の位置を把握、その後自分たちの担当する相手に最も近い門まで走る。
そしてそこで待ち構えて"グィンセイミさんの技術"と"遺跡のシステム"が間に合うまで耐える。
都合のいいことに遺跡を中心として円を描くようにぬかるんだ平地があり、その周りをさらに円状に深い森が覆っている。
だから森から出てきた人影を見損なうこともない。
 
 
誰が誰の相手をするかは昨日の会議で決めた。自分なりに最善の策を立てたつもりだ。
 
一番厄介な相手のスノウの担当は私。
恐らく私でないと足止めすることも出来ないだろう。
リペノさんの実力は不確かだけれども、相性の関係上私のほうが有利だ。
それに何より、私はスノウのことをよく知っている。
 
リペノさんには召喚士であるミヤイニレの相手をしてもらう。
召喚士というのは本体に隙が出る事が多い。
それを補うための【毒魔法】を彼は所持していたはずだけれども、これも得物を持つ剣士なら対処しきれるはずだ。
 
そしてウルトンさんはサカグの相手だ。
消去法でそうなった、とも言えるかもしれないし、そうとも言い切れないかもしれない。
リペノさんにもサカグの相手はできるだろうし、召喚士であるミヤイニレにも
【ゼロ】持ちであるウルトンさんなら十分に戦うことは出来るかもしれないからだ。
 
私は大勢の命がかかっているこの状態で、私情を挟んでしまっていた。
サカグは他の二人よりも攻撃が単純で、はっきり言って弱い。
 
そう、"最も安全だから"。
そういう理由でウルトンさんをサカグに当てた。
 
こんな事を言うと彼は怒るかもしれないけど、私はまだ彼には死んでもらいたくない。
もっとこの広いLiveで、様々な世界を体感して欲しい……
 
 

 ―朝、空き家―

 
「お姉さん? どうしたんですか?
 もしかしてお姉さんともあろう者がビビッちゃってますか?」
 
ハッとして、我に返る。
ウルトンさんが顔を覗き込んでいた。
澄んだ瞳を無意識に【読心術】で覗き込むと同時に流れ込む
(「怖い怖い、結構怖いな、いや、ここは俺がしっかりして皆を支えなくては、いやでも怖いだろ普通…」)
という意識が私の心を穏やかにさせる。
 
「ふふ、もしかしたらウルトンさんの緊張が移ってしまったのかも知れませんね」
 
そう言って周囲を見渡す。数人の村人たちが集まってきていた。
リペノさんは多少の緊張はあるものの、怯えは微塵も見せずに冷静そのものだった。
一転、村人にはやはりかなりの不安があるようだ。
【猫かぶり】の少女は先ほどから私の後ろで縮こまって震えている。
  
二言三言皆と言葉を交わしてから、再度【検索】に意識を集中させる。
 
最終【検索】………………………
………
……

 座標 ****  座標 ****  座標 ****
『スノウは南、サカグは西、ミヤイニレは東』 
 
…………………完了。
  
  
「皆さん、作戦開始です。
 ウルトンさんは西門へ。リペノさんは東門。そして私は南門です。
 いいですか、無茶はしないこと。
 倒す必要はないんです、時間を稼ぐだけでいいんですよ」
 
ウルトンさんとリペノさんが頷くのを確認してから、南門へ向けて走り出す。
先手を取るためにも、【灰身】が森から出てくるより先にこちらが門を抜けなくてはいけない。
  
 
*
 
 
しばらく走り、南門に到着した。
南門は空き家から最も遠い場所にあった。
ウルトンさん達はもう門を越えているだろう。
 
門を潜り敵がいないことを確認してから再度、【検索】
うん、大丈夫。皆指定の場所に着いている。
 
 
 
 
「……!?」
 
起こりえないことが起きた。
そんな、まさか。
【検索】は、間違わない。
なのに、何故?
何故このような結果が、出るのだろうか。
 
そして、直前の【検索】結果が示した情報の通りに。
 
森から出てきたのは、大剣を担ぎ上げた逆毛の男。
 
本来西門でウルトンさんと相対するはずであった、サカグだった。
 

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