57.虎

2007年6月24日
「【隻眼の剣士】だ……と?」
ヤツが戸惑ったのも無理は無い。
確かに青い髪で青いマントをつけて腰に剣をぶら下げている。いる、が……
 
「あ、あれ?驚かないんですか?」
 
逆に戸惑う自称【隻眼の剣士】。
そりゃそうだ。
 
背が、とてつもなく低い。
150cm無いんじゃないだろうか。
そして何よりも本物の【隻眼の剣士】には溢れんばかりの覇気がある。
それがこの初心者オーラ漂う偽者にはない。
幼少期の【隻眼の剣士】といったところか。liveに幼少期とかがあるのかは知らないが。
 
ネーム:確認:リペノ  うん、やっぱり別人物だ。
 
 
「とりあえず!そこの男!えっと……【ネーム:確認】……サカグさん!
 弱いもの虐めはやめるんだ!」
 
めげずに続ける偽者の【隻眼の剣士】、リペノ。しかし迫力はまったくない。
 
 
大剣の男……サカグは呆れたようにため息をついてしゃべりだした。 
 
「いいか、よく聞け。
 こいつはPKだ」
 
「私PKなんかじゃない!」
 
「PKじゃないって言ってるぞ」
口を挟む。傍目にもPKが出来るようなキャラではないことは明らかだ。
 
「お前らまんまと騙されてるな。
 こいつはな、【猫かぶり】のスキルを持っている。
 【猫かぶり】ってのはようは嘘をつくスキルだ。
 嘘をな、バレなくするスキルなんだよ。
 じゃあ、死ね
 
サカグはいつの間にか大剣を引き抜き、そして少女の首めがけて切り払っていた。
唐突な行動に瞬時の判断が出来なかった。体が動かない!駄目だ!間に合わない!
 
 
 
 
 
 
少女の首はまだ体と繋がっていた。
 
背筋が震える。感じたのは虎のような威圧感。
気づくとリペノがサカグの前に回りこみ斬撃を止めていた。

手には細身の剣が握られており、数倍の重さと体積を持つサカグの大剣を抑えている。
 
「確証は」
 
「…!?」
 
「この娘が【猫かぶり】を持っているとしても、
 この子がPKだということにはならない。
 PKだという確証は、あるのか?」
 
  
予想外の出来事にサカグは怯んでいた。
だがしかしすぐに落ち着きを取り戻し、リペノを睨み付けた。
 
「確証なんてものは必要ない。
 オレ達が”PK”と判断したら、PKだ。
 分かったか?偽者野郎」
 
 
リペノがサカグを弾き飛ばす。この小柄な体のどこにそんなパワーがあるのだろうか。
まぁいい、今はそんなことを考えている場合じゃない。
急いで”PK疑惑”の掛かっている少女の前に立つ。
これでもう不意打ちを受けることは無い。
 
  
「うじゃうじゃと雑魚が……
 !!」

またもやサカグは怯み、体の動きを止めた。
何なんだ?
 
「オレとしたことがネームの確認を怠るとは……
 いいだろう。任務を放棄する。
 【猫かぶり】の処理は次回作戦時にしといてやる」
 
 
短い風切り音。サカグは捨て台詞を残し消えた。
 
リペノの体から威圧感が消失する。息を吐きながら、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
 
「ありがとうございます。
 おかげで助かりました!
 えーと、【ネーム:確認】……ウルトンさんとグィンセイミさん、ですね。
 【隻眼の剣士】の名の下に敬意を表します」
 
お前は【隻眼の剣士】じゃないがな。

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