50.陰

2007年6月19日
「チッ、仕方ねえな。お前が掘って俺が掘る。その繰り返し、交替交替だ。文句ねぇだろ」
相変わらず図々しいがコイツにとってはこれでも譲歩しているつもりなんだろう。
そういうことにしておく。
 
交渉を了承しグィンセイミからツルハシを受け取る。
ツルハシは結構重く両手でないと支えれない。あれ、グィンセイミの奴は片手で持ってなかったか?
いやいやそんなことは無い、断じて無い。
 
ツルハシを頭上まで持ち上げ、地面に思い切り叩きつける。自重によって地面に衝撃が走り、割れる。
地面にはサッカーボールの半球並の穴ができあがっていた。まぁこんなもんだろう。
「全然駄目だな。貸せ」
グィンセイミにツルハシを取られる。
埋蔵物がどれくらいの深さにあるのかは知らないが、もし俺の背より深く埋まっているならあと数十回は掘らなきゃいけないだろう。
発掘という作業はそもそも、地味にコツコツ掘り進んで埋蔵物を傷つけないように掘るものだというイメージがある。
折角掘り出したのに、狙いの物が傷物になってちゃ仕方ないからな。
 
うらぁああ!
発掘の地味さについて思考を廻らしていた俺は、グィンセイミの怒声によってlive世界に呼び戻された。
突如轟音とともに地面が揺れる。じ、地震か?揺れは3秒ほど続いた、一瞬洞窟が崩れるんじゃないかと思ったがその心配は無かったようだ。
 
地面にさっきまで無かったはずの穴が出来ていた。
   その大きさ、半径約1m、深さ約3m。
 
え、何、今のこいつがやったの? ……  ……嘘だろ?
 
 
「交替するまでも無かったな」
グィンセイミは今出来たばかりの穴を降りていく。底を覗いて見るとキラキラと何かが光っていた。
 
「これが目的の鉱石だ。名前はまだ無いが、耐熱、耐圧力、様々な耐性を持っている。強度では最高の新鉱石だな」
ぶっきらぼうに説明をしながらグィンセイミはその鉱石を次々と持ち上げ袋に詰め込んでいく。
全ての鉱石を詰め終えたとき、袋は小さな机サイズになっていた。
 
「おい、今から登るから手ぇ貸せ」
お前一人だった場合どうするつもりだったんだと言いたかったが、支離滅裂馬鹿には何を言っても無駄だろうから渋々と手を差し伸べることにした。
そのとき袋の陰にチラリと光るものを見た。
 
「何やってんだ、さっさと手ぇ貸せよ」
中々手を出そうとしない俺にイライラしながら声をかけてきたグィンセイミのことを無視し、
俺は穴に滑り降り、先ほど目に入ったものを拾う。
 
「馬鹿かてめぇ、お前まで穴に降りてどうすんだよ!」
「それくらい考えてないとでも思ったか、これだから筋肉馬鹿は……
 ……は置いといて、これ何だか分かるか?」
 
それは、ところどころに宝石のような輝きを持つ円状の物体だった。
中央には絵が彫刻されていて、天使が祈りながら天に昇っていくのを表しているようだった。
 
「……少なくとも鉱石ではねぇ。恐らく何らかの魔法アイテムだろ。
 俺はいらねぇ、お前が持ってっていいぞ」
「……何でだよ。お前が言うとどう考えても何かあるようにしか思えないぞ。
 また騙す気かコラ」
グィンセイミの意外な申し出に俺は率直に思ったことを返した。
大方このアイテムは一歩歩くごとに髪の毛が抜けていくとかいう呪いのアイテムだろう。俺はスンラにはなりたく無い。
 
「俺はな、前に言ったかもしれないが、魔法が、大嫌いなんだよ!
 魔法アイテムなんてもんを持ち歩くのは寒気がする行為だ、ただそれだけだよ」
 
理由を話す顔が、本当に嫌そうな表情だったので奴の言い分を信じることにした。
魔法が嫌いってのは気に食わないが、まぁ科学馬鹿のシムシの人間なんだから高等なことを分からせるってのが無理ってもんだろう。
 
円板を見つめる。
これが俺が離れ島に来てから初めて得たアイテムだ。
こうやって、旅の記録をつけるように、各地でアイテムを収集するのもいいかもしれない。
それにこれはあの人に似合いそうだ。蒐集家なんだからきっと喜ぶだろう。
そんなことを考えながら、天使の円板をポケットにしまった。

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