俺と石井は美術室に服をとりに戻った。いつまでもパンツ一丁じゃ風邪を引きそうだからだ。
美術室には先客がいた。絵を描いているので恐らく部員だろう。
髪が顔を覆っているのでよくわからないが年は俺たちの一個下ぐらいだろうか。

「ん?」
服のそばに新聞が広げてある。
その横に一枚の書き置きがあった。多分ミナからだろう。
「おい、石井」

「石井って、だあれ?」
俺は扉の前の石井に話しかけたつもりだったのだが、一個離れた机から返答が返ってきた。
「石井ってだあれ?この今僕が描いている肖像画の人?それとも向こうに飾ってある人達のだれか?」

「あ、いや、石井はあの扉のところにいる…」
冗談で言っているのか?その判断はつかない。
髪で目が隠れて表情がよみとれないからだ。
ただ 口元をみると 笑っている いや 嘲笑しているかのようだった。

「ああ、あれかあ。あれは僕は知らないなあ」
「でもおかしいよねっ、それってあの肖像画の人とこの銅像の人を間違えてるみたい」
男はくすくす笑う。

「なんだ、こいつ、何言ってんだ?」
声を抑えながら石井がこっちにやってきた。
「知らん、ただの気違いだ。それより書き置きがあったんだ」

--
ヨシへ
ヨシの服らしきものが合ったのでここにメッセージを残して置きます。
黒土はいまのところ見掛けません。
また見掛けてもどうにもならないことは分かっているので無茶はしません。
私と憂のことは心配しないで下さい。
あとそこに散らばっている新聞ですが、朝日新聞に面白い記事が載っていました。
まるで何かが取り憑いたかのように朝日に見入ってしまいました。
その記事の一面の内容って一度はやって見たいと思うことですよね。
それでは、そちらも気をつけてください。
--

「朝日新聞っと」
床に散乱している新聞から朝日新聞を探しだす。
「えーと、何々、…」
ストーカーの記事だった。なんと丸一年続けていたようだ。
家の前に隠れて様子を伺うとかじゃない。
被害者の半径10m以内に居続けることを、だ。
しかも被害者はこれに全く気付かなかったらしい。
怪しいと思った周辺住人に通報されて御用となった訳だが、これじゃもはや尾行だ。

「石井、ミナはストーカーがしたいらしいぞ、…石井?」
石井はさっきの気味の悪い美術部員を凝視していた。
そんなに"あれ"呼ばわりされたのが気に食わなかったのか。

だけどそれは違った。よく見ると焦点が定まっていない。
何かを必死で考えているような、そんな顔だった。
「なあ、良幸。その書き置きもう一度見せてくれ」
「ああいいけど…」
ガララッ
ミナの書き置きを石井に渡したのと同時に扉が開いた。
一人の大人だった。体育の教師だろうか、体はガッシリしている。
俺と石井(と美術部員)を見つけるとうさん臭そうに口を開いた。
「ここでなにをしている?あの生徒は美術部員みたいだが…」
俺たちは神経を張り詰めていた。この男も黒土の手下かもしれない。
大人は子供より黒土の呪いにかかりやすい。
怪しさでいったら不気味な美術部員も似たようなものだがこの男のほうが信用できない。

「あっえっとですね、えーと、新聞を片付けようと思って」
ああ…言い訳にならんな… そう思った時に石井の声がした。
「そう!新聞なんですよ新聞。とくに朝日がすごくてね!まるで取り憑かれたように見ちゃうんですよこれが!」
おかしい、明らかにハイテンションだ。
だけどそれ以上におかしいのは、教師に向けて話しているはずの石井が何故か俺の顔をみて、いや、目をみて話しかけているのだ。

朝 日 が 取り 憑かれ た かの ように ?

その一瞬に俺は石井の考えを理解した。
「朝日新聞だあ?」体育系教師が新聞を拾うために屈んだ隙をみて俺たちは美術室を飛び出した。
扉の向こうから教師の怒鳴り声が聞こえたが気にしていられない。
廊下を全力疾走しながら石井に問い掛ける。
「つまり朝日が黒土に取り憑かれてる、そういうことか?」
「黒土かどうかはわからないが何者かが取り憑いている、そういうことだろうな。少なくともミナたちはそう思い俺たちに伝えたんだろう。」
「…そして記事の一面から判断するとミナたちは朝日を付けている…」
廊下を曲がる。階段の前に生徒の列ができていて上に行くにも下に行くにも走ることができない。
「そうだろうな」
列に体をねじ込ませながら今のうちに息を整えておく。
「朝日に取り憑いているのが黒土なら、奴が尾行に気付かないわけが…」
「ハズレ」
生徒の列の中から声がした。
゛あの娘゛だ。
「朝日に取り憑いているのは黒土じゃないよ」

石井はその情報を深く追求しようとしたみたいだが、
そんなことよりも、俺にはまずはっきりさせなければならないことがあった。
「君は、じゃあ君はどうなんだ!?黒土の手下なのか?それとも…」
彼女は微笑み、そして……
.
.
.

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索